それほどの存在では
「クライヴは叔父夫婦が亡くなってから、悲しみを見せぬよう、常に気を張っているようで、心配だったのです。昔はよく笑う男だったのですよ」
「そうだったのですか?」
レイチェルには、それを想像するのは難しい。クライヴといえば生真面目な表情が多く、よく笑うとは言えない。
子供の頃からきっとそうなのだろう、と勝手に思っていた。何をして遊んで、何に笑ったのか、子供の頃の事を話したがらないから、まったく想像がつかないのだ。
(笑うと素敵なのにもったいない)
そう考えて、レイチェルは自分で自分に驚いた。当たり前のようにそう思った事が、何だか不思議に思える。
王太子はそんなレイチェルの心境には気がつかず、懐かしそうに目を細めながら言った。
「ええ。今の仏頂面が多い方が珍しいほどに。弟や妹たちのよき遊び相手で、私にとっては友人で。今は友人なんて言うと、困った顔をされますけどね」
肩をすくめて見せる王太子は、ちょっと困ったように笑う。
「私は王太子として、ただひとりだけを助けるわけにはいかないので、それは仕方がないのでしょう。なので、クライヴの側にあなたのような方がいるのなら安心できます」
「……買い被りすぎですわ、殿下。わたくしは、クライヴ様にとって、それほどの存在では無いと思います」
クライヴに影響力があるとすれば、それはフランチェスカ叔母様だろう、とレイチェルは思う。
あの結婚を申し込まれた夜。自分とクライヴの間に、甘やかな感情などは無かった。ただ利害が一致したようなもの。
クライヴは自分の知的好奇心を満たせ、レイチェルは、退屈さと孤独感を紛らわせる事が出来る。
「あなたの不安はきっと、クライヴが言葉にするのが苦手だからだと思いますよ。クライヴを信じてあげてほしい、としか私には言えなくて申し訳ないのですが。大丈夫ですよ。クライヴが悪い人間ではないことは確かですから」
王太子の慰めの言葉に、レイチェルは微笑みを浮かべた。それは確かにそうだ、と思ったから。それでもふとした瞬間に不安を感じてしまうのは、クライヴがどうこうというわけではない。
自分が人間とは違うと、痛いほどに痛感してしまう瞬間があるからだ。例えば、真夜中に静かな寝息を聞く時。例えば、血を口にする時。
ヴァンパイアとしてはまだまだ未熟だから、そう思うのかもしれない、とは思うのだけれど。
レイチェルはそんな心を隠すように微笑んだまま、「殿下にそうおっしゃっていただけると、とても嬉しいですわ」と答えた。




