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侯爵様はヴァンパイアを妻にお望みのようです  作者: リラ
月夜は踊子のように、蕩揺に
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奇遇ね

カフェに入ると、二人は窓際の席に案内された。紅茶を注文し、それを待つ間少し周りを見渡せば、それぞれ楽しく会話に花を咲かせているのが目に入る。


その当たり前のような喧騒と、運ばれて来た紅茶の香りが、次第にレイチェルの緊張をほどいて行く。温かな紅茶を口に含めば、ふぅ、と安堵のため息を吐いた。


「落ち着いたか?」


案じるようなクライヴの言葉に、レイチェルは静かに頷く。


「ええ。ごめんなさい、つい手を離してしまって」

「気にするな。怪我が無くて良かった。だが次からは気をつけるように」


クライヴが笑って言えば、レイチェルの顔に気の抜けたような笑みが浮かんだ。よっぽど気を張っていたのだろう、とレイチェルも自分に対して苦笑する。


あの時レイチェルの脳裏には、4年前の事が一瞬だけ甦った。つい昨日の事のように覚えている、馬車に轢かれたあの日の恐怖を。そしてそれと同時に、何か別の事を思い出したような気がするのに、今はそれが何か分からない。


(そういえばあの日、わたくしは何かを見つけて……)


事故の瞬間は覚えているのに、その前の事が曖昧だ。何か大事な事を忘れているような。靄がかかったように判然としなくて、もどかしい気持ちになる。


「あら? レイチェルじゃない。こんな場所で会うなんて奇遇ね」


と、そんな声が横から聞こえて、レイチェルはそちらへ顔を向ける。見れば、レイチェルと同年代頃の黒髪の女性と、身なりのいい中年の男性が立っていた。


黒髪の女性を見上げ、レイチェルは微笑みを浮かべる。貴族同士で名前を呼ぶのは、親族かよほど親しい仲でしかありえない。その為周りから見れば、友人なのだなと思うだけだろうけれど、二人の場合は少し違う。


友人なのは確かだが、目の前の女性は爵位を、人間の持つ爵位などを気にする必要など無いのだから。呼びたければ呼ぶし、呼びたくなければ呼ばない。彼女がレイチェルの名前を呼ぶのは、友人であると同時に同胞だからだ。


「サミュリア。あなたこそ。今日はどうしたの?」


レイチェルがそう問いかければ、にっこりと少女のように笑う。彼女の纏う朝焼けの様なワンピースが、それを引き立てているように見えた。彼女がお伽噺に出て来る妖精であれば、きっと朝焼けの雲から生まれたのだろう。


サミュリア。《朝の星》を意味する名前を持つ彼女には、ぴったりな役どころではないだろうか。そんな事を思って、レイチェルは密かに微笑んだ。


「おじ様がね、美味しいものをご馳走してくれたの。ここのサンドイッチは絶品よ。あなたたちも食べてみるといいわ」


天真爛漫に笑う彼女は、どこにでもいそうな貴族令嬢で、とてもではないが、500年を生きてきたヴァンパイアには見えないのだった。


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