白薔薇
二人が入ったのは貴族女性に人気の店で、レイチェルが求める髪飾りはもちろん、イヤリング、ペンダント、ブレスレットなどを取り揃えている。
金や銀、宝石を使った豪華な物から、素朴でシンプルな物まで、様々な商品が綺麗にディスプレイされていた。二人の他に客はおらず、穏やかな女性店員が二人を出迎える。
貴族女性は、家に職人を呼んで作らせる事もあるけれど、こうして直接店を訪れる事もある。特にこの店は、既製品とはいえ品ぞろえは豊富で、同じデザインの物は二つと無い。
刺繍に編み物、ダンスやマナーのレッスンに教養と忙しい令嬢も、家の仕事、訪問やお茶会に忙しい淑女も、息抜きがてらに訪れるのだった。
レイチェルとクライヴがゆっくりと店内を見て回る間、店員の女性は微笑みを浮かべて二人を時折見守りながら、余計な口を挟むことは無い。必要以上に声をかけてくる店員が苦手なクライヴには、丁度良い店とも言えた。
「……レイチェル。これがいいのではないか?あまり派手さはないが、そなたに似合いそうだ」
ふと、クライヴが手に取った品を見て、僅かにレイチェルが驚いた顔をする。それは白薔薇がモチーフのヘッドドレスで、どちらかと言えば清楚な女性に似合いそうなものだった。
何も言わないレイチェルに、どうかしたか、とクライヴが首を傾げれば、レイチェルは慌てたように首を横に振った。
「いえ、少し驚いてしまいましたの。人からは赤い薔薇が良く似合うと言われることが多いですけれど、わたくしは白薔薇が一番好きですから」
「そうか。俺の見立ても悪くないな」
「クライヴ様ったら。ではそれにしますわ」
「いいのか、俺が選んで」
「クライヴ様から贈っていただいたと言えますもの。それに、実はわたくしもそれが気になっていましたの」
にっこりと笑ったレイチェルに、クライヴも自然と笑みが浮かぶ。そしてそれを包んでもらうと、店員に笑顔で見送られ店を後にした。
次は何処に行こうか、と話しながら、二人は通りを歩く。先ほどよりも人が溢れ、人を避けて歩くのが大変だった。そのせいかレイチェルは、走って来た子供を避けようとして、気が付くとクライヴの腕に添えていた手を離してしまう。
(あ……、っ)
気が付いたクライヴが振り返った時、バランスを崩したレイチェルが、車道側へよろけてしまいそうになっているのが見えた。数歩分戻ったクライヴがレイチェルの手を引くのと、馬車が通りすぎるのは、ほぼ同時だった。
あと一歩遅ければ、大変な事になっていただろう。と、安堵の息を漏らすクライヴの腕の中で、レイチェルは冷や汗をかいていた。昔の時と違って、今事故に合ってしまったら、ヴァンパイアとしての自分の性を抑えきれないだろうから。
「レイチェル。大丈夫か?」
「クライヴ様……。ごめんなさい、少し……」
「あちらのカフェで休憩にしよう」
言外のレイチェルの言葉を正確にくみ取り、今度は手を離さないようにと、クライヴはしっかりとレイチェルの手を取って歩き出した。




