次はあちらへ
クライヴが高熱で倒れて1週間後。レイチェルはすっかり回復したクライヴと連れだって、街へ買い物に出掛けていた。
街の中心には大聖堂があり、そこから枝を広げたかのように街路が伸びる。石畳で舗装された道路には馬車が行き交い、多くの人々が歩いている。
従者連れのご令嬢、身なりのいい紳士、楽しそうな親子、そしてレイチェルとクライヴのような夫婦。
一歩路地裏に入れば、治安のいいとは言えない区域もあるとはいえ、大通りは賑やかで、皆が笑顔だった。
「クライヴ様、次はあちらへ参りましょう!」
レイチェルがクライヴの腕を引きながら、はしゃぐ声で言う。ヴァンパイアであろうとも、女性が買い物にうきうきとするのは変わらないらしい。
着いてからあちこちに目をやりながら、ステップでも踏みそうなほど軽やかに歩くレイチェルは、あの夜の妖艶さはどこへやら、まるで少女のようだった。今着ている青のドレスも、レイチェルに可憐さをプラスしている。
何がそんなに楽しいのかと聞けば、二人で買い物をするのは初めてですもの、と可愛らしい答えが返ってきた。朝食の席からして楽しそうに笑っていたのだから、よほど楽しみにしていたのだろう。
ここまで来る馬車の中でも、クライヴが微笑ましそうに見つめてしまうほど、目を輝かせて外の景色を眺めていた。最近街へ出る事の無かったレイチェルだったため、喜びを隠しきれなかったのである。
かつてクライヴも、主に荷物持ちとして、よく母親や妹に連れ回されたものだけれど、その度に従者を連れて来ればいいのに、と何度思ったことか。
けれど今日は、余計な事を思う暇もなく、ただ純粋に楽しく思う。それは、隣にいるのがレイチェルだからだろうか。
そんな事を思いながら、初めて見るレイチェルのその様子に心が和んだクライヴは、小さく笑って口を開いた。
「元気だな。そんなに楽しそうな姿を見ると、連れてきた甲斐があったなと思うぞ」
「まぁ。ごめんなさい。わたくしとしたことが、はしゃいでしまって。そろそろお疲れですわよね?」
「いや。中々楽しくてそんな事を思う暇もない。誰かと買い物など久しぶりだからな。それで、どの店に行きたいんだ?」
「あちらの装飾品店に。髪飾りが欲しいのですわ。ドレスを新調してくださったでしょう。それに合うものを。よろしいかしら?」
「もちろん。さぁ、行こう」
クライヴが笑うとレイチェルも安堵したように微笑み、今までもずっとそうしていたかのように腕を組み、足を進める。二人の姿はどこからどう見ても、仲の良い夫婦の姿そのものだった。




