しっかりした妻だ
「そうだな……」
クライヴは昔を思い出そうとするように、目を閉じる。
今から2年ほど前、前侯爵夫妻はこの世を去った。レイチェルと同じく、馬車による事故。二人の場合、アッシュベリー領へ向かっている最中に、乗っていた馬車が誤って崖下に転落してしまったのだ。
御者が道を誤った事が原因の、痛ましい事故だった。
その日クライヴは、妹と一緒に王宮にいた。まだ幼い王子王女たちの遊び相手、王太子殿下の話し相手として招かれていたのだ。事故の知らせは数日後、二人の遺体と共にクライヴの元に届いた。
そして葬儀をあげ1年間喪に服したのち、クライヴはアッシュベリー侯爵の名を国王より賜る。だから今はクライヴが侯爵となって、ようやく1年が過ぎた所だ。
「……父上は陛下の三番目の弟で、あまり口数は多くなかったな。だが母上に内緒と言っては、俺や妹に菓子を買って来たものだ。母上が気が付いてるとも知らず。そんな母上は厳しく、きっちりとした人だった。後は少しおせっかい。俺の結婚相手に、と令嬢を探していた。これは以前も話したな」
レイチェルがこの言葉に微笑むと、クライヴも微笑みを返す。
「父上と母上にも、レイチェルを会わせたかった。きっと気に入る」
「お二人は、とても仲のいい夫婦だったと聞いた事があります。お二人揃って、空の上から見守ってくれていますわ」
そうだな、とクライヴが微笑むのと同時に、時計の音が鳴り響く。いつの間にか、お茶会から帰って来て、だいぶ経っていたようだ。
「申し訳ありません、クライヴ様。体調が悪いというのに、話しこんでしまって」
「いや。寝るのにも飽きていたところだったし、話したら気が紛れた。熱もレイチェルのおかげで下がったようだ」
「だったらよいのですが。またお休みください」
そう言ってレイチェルは立ち上がり、ベッドの乱れを整える。それからエディが用意していたのであろう布で、クライヴの額の汗を拭う。
きっと寝巻も汗をかいているだろうが、そればかりはレイチェルにはどうしようもない。
「後でエディに着替えを頼んでおきますわ。汗で冷えてはいけませんから。後はお薬を飲んで、しっかりと眠ってくださいませね。2週間後には王太子殿下の晩餐会がありますし、欠席するわけにはいきません」
「しっかりした妻だ。レイチェルで良かった」
クライヴは笑みを浮かべながらそう言って、目を閉じた。レイチェルはしばらく立ったままその顔を見つめていたが、規則正しい寝息が聞こえてくると、部屋を後にする。
そして、丁度階段を上がって来たエディに声をかけた。
「あ、エディ。後でクライヴ様の着替えをお願い。汗をかいているから。それから夕食は軽めのものを、イライアスに頼んでね。熱は下がったからもう大丈夫だと思うけれど、今日一日か明日は安静にして貰わないと」
「かしこまりました、奥様。ありがとうございます」
「どうしたの急に」
お礼を言われるような事を言っただろうか、と首を傾げるレイチェルに、エディは好々爺とした笑みを浮かべて答える。




