優しい
レイチェルは手袋を外して手を伸ばし、クライヴの額に触れる。物凄い熱だ。きっと無理をしていたのだろう。これでは倒れてもしょうがない。
「レイチェルの手は、冷たくて気持ちがいいな」
と、そんな事を言って笑うクライヴに、レイチェルも笑う。
「クライヴ様が熱いのです。……と、言いたい所ですが、わたくしの体温は確かに人より低いですわね」
「暑さは苦手そうなのに、レイチェルの方が元気だな」
「こう見えてヴァンパイアですので。ああ、そうですわ。少し目を閉じて下さいます?」
その言葉に大人しく目を閉じたクライヴに笑い、そして、椅子から腰を浮かせると、クライヴの前髪をかき分け、その額に口づけを落とす。
3秒ほどしてレイチェルが離れるのと同時に、クライヴは目を開けた。
「今のは……」
「熱を少しいただきましたわ。これで少しは楽かと」
言われてみればその通りで、体が軽くなっている事を感じる。クライヴは先ほどよりも楽になった呼吸のもと、驚いた様子でレイチェルを見つめた。
「そんな事も出来るのか」
「クライヴ様はよくそう言いますわね」
「初めての事に驚くのは当然だ」
真面目な顔で言うクライヴに、確かにその通りだわ、とレイチェルはくすくすと笑う。
本来、熱を取るという行為は、人間の命を奪う際に行うものであるが、加減をすればこういう事も出来る。レヴィが以前、レイチェルに教えた事だった。
「熱をとっても、レイチェルに影響はないのか?」
「今の場合、人間の平熱くらいに上がるだけですわ」
そう答えながら、心配されて嬉しいと思ったのは、気のせいでは無いはずだ。人であろうとヴァンパイアであろうと、気遣われて嬉しくないものはいないだろう。
そしてその気遣いを、レイチェルに一番見せてくれていた人の事を思い出す。
「体温が低いといえば。伯爵家に戻った日に、お母様が抱き締めてくれたのですけれど、その時わたくしのあまりの冷たさを心配したのか、暖炉に引っ張り、毛布を何枚も着せられましたの。こういう体なのだと説明するのに、だいぶ時間がかかりましたわ」
「それだけ心配だったのではないか」
「ええ。あんなに慌てた様子のお母様は、あの時初めて見ました。いつもおおらかに笑って、ゆったりとしているから」
娘の帰還を泣いて喜び、ヴァンパイアであろうと可愛い娘だ、と言ってくれた事がレイチェルの救いだった。例え父親と兄に嫌われようと、それだけで十分だったのだ。
「あまり、レイチェルとは似ていないような気がしたが。優しいその性格は、母親譲りだな」
「優しい、ですか?」
「ああ。優しいし、一緒に居ると、何故か安心する」
「そうですか……。クライヴ様のご両親は、どのような方だったのですか?クライヴ様はどちらに似ていらっしゃるのでしょうか」
そう聞いたのは、気恥ずかしさからだったかもしれない。前侯爵夫妻の事が気になっていたという事も、事実ではあったけれど。




