やっぱり
しばらくレイチェルを質問攻めにしていた三人だったが、やがて誰からともなく一息つき、紅茶を口に運ぶ。
「……それにしても、実は少し安心いたしましたの。マクレナン子爵夫人がご結婚されてから、結婚する気なんて無いと思っていましたから」
それは妻を前にして言う事なのか、と思ったが、言った張本人のアリシアは特に気にしていないようである。少し緊張気味の残る二人の様子から見て、こういう性格なのだろう。
無意識に敵を増やしていそうだな、と思いながらレイチェルは首を傾げる。
「叔母様が結婚してから……?」
「レイチェル様は彼女の姪御さんなの?」
アリシアにいつの間にか名前で呼ばれているが、それについては何も言わない。何とか夫人、と呼びあう事は正直レイチェルも面倒なのだ。
「ええ。わたくしの母の妹ですから。といっても年齢はそれほど変わらないのですが」
「そうよね。彼女はクライヴ殿と同い年ですもの」
「クライヴ様はやっぱり、叔母様の事が?」
「そうだったみたいね。でももう過去の事でしょう。気にする事は無いと思うわ」
何という楽観主義。気性の激しい女性なら、怒って帰ってしまう所だ。もうどうにもならない過去の話を持ち出され、良い気はしない筈である。
レイチェルはといえば、よく分からない。知った事が悲しいのかどうなのか。気が付いていた事だが、第三者から聞くと胸がちくりと痛んだのは確かだった。
ヴァンパイアである自分は、人から愛を与えられることは、やっぱりないのだと思って。
少し俯いたレイチェルに気が付いたのか、アリシアがあたふたと口を開く。ようやく、自分の失言に気がついたらしい。
「ごめんなさい。気分を悪くしたかしら。私っていつもそうなの。言ってしまってから、注意されることが多いのよね。主人にもしょっちゅう叱られていますわ」
「本当にそうですわよね。そそっかしいというか。けれどそのおかげで楽しい時もありますよ」
空々しいほど明るく話す二人に、レイチェルは微笑みを浮かべる。お茶会の席を、悲しいもので終わらせる気はもちろん無い。いくら二人が優しくても、ここで気分を害して帰ったりしたら終わりだ。
侯爵夫人としては、いつでも優雅であらなければ、と肝に銘じる。
「大丈夫ですわ。過去がどうであれ、大切なのは今ですもの」
「それでこそ侯爵夫人というものよ、レイチェル様。そうだわ。私の事もぜひアリシアと呼んでちょうだいね。これから仲良くしましょう」
そう言って笑うアリシアに笑い返すと、令嬢と夫人もほっとしたように笑った。実際、レイチェルとアリシアは長い間交流を持ち、仲の良い友人となるが、まだ少し先の事。
その後は、あらゆる噂話で盛り上がり、お茶会はお開きとなったのである。




