永遠の秘密
それから、甘いお菓子に舌鼓を打ちつつ、噂話に興じていると、ふと思い出したように、アリシアが手を叩く。
「そういえば。伯爵令嬢でいらした時は、二年ほど姿を見せておりませんでしたわよね?」
アリシアの言葉に、よく知っている事だ、とレイチェルは心中で呟きながら、慎重に言葉を選ぶ。こういう場合どう答えるかは、大体いつも同じ。
エイヴリー伯爵の娘であり、アッシュベリー侯爵の妻がヴァンパイアだという事は、永遠の秘密にしなければならない。特に、噂好きの婦人たちには。
ゆくゆく、レイチェルは何か理由を付けて、表舞台から姿を消す事になっている。それまで秘密を隠し通す事が、レイチェルの使命のようなものである。
「……ええ。病に臥せっておりましたので。快復してからは両親の願いで夜会に出ておりましたけれど、体力が落ちていたのか休むことも多くて。そんな時に、クライヴ様が介抱してくださいましたの。あの方は本当にお優しくて、気遣い上手でいらっしゃいます。結婚していなかった事が、今でも不思議でなりませんわ。わたくしはきっと、運が良かったのでしょう」
多少脚色しているが、この際しょうがない。だが三人ともすっかりこの話が気に入ったのか、夢見る乙女ような表情を浮かべている。
何歳であろうと、現実を知ろうと、女性は夢のようなロマンスが大好きなのだ。
特に令嬢などは目を輝かせ、手を握り合わせながら言った。
「それではやっぱり、出会うべくして出会ったのですわね。あぁ、私も早くそんな方と出会いたいものです」
この言い方からして、婚約者はおらず、社交界デビューもまだなのだろう。キラキラと輝く瞳が、レイチェルには眩しい。
この国の貴族令嬢は、十六の誕生日を祝う舞踏会を開き、それをデビューとする。その後は舞踏会に招かれるようになり、結婚相手を見つける事が多い。
婚約者がいる場合、その人物と一緒であれば参加は可能である。婚約者がいたレイチェルにとっては、夢を見られるような場所では無かった。
その後伯爵により婚約は解消され、自由の身にはなったが、夜会に出る気になれず、部屋に引きこもっていたほど。
だから、令嬢が少し羨ましいと思ったのかもしれない。無邪気で純粋でいられる時期は、とっくに過ぎてしまっている。
優しい顔で近づいてくる人間が、本当に優しいかどうかは分からない。ヴァンパイアになってからは特に、そう思うようになっていた。
とはいっても、ここでそれを言うほど、レイチェルの意地は悪くない。見つかるといいですね、と微笑みを浮かべたのだった。




