ビスケットにタルト
「──侯爵夫人?どうなさったの、ぼんやりして」
その声にレイチェルは自分がどこに居るのかを思い出し、微笑みを浮かべて首を振った。
今、レイチェルはオニール伯爵邸の庭で、お茶会の真っ最中だ。出てくる前の事が頭に引っ掛かっているとはいえ、ぼんやりしている場合ではない。
気を遣う場でもあるけれど、お茶会は楽しむ為にあるのだ。
「ああ、いえ。何でもありませんの。それにしても、今日は暑いですわね」
そう言いながら、手にした扇で顔を扇いで見せる。ヴァンパイアであるレイチェルは、人より暑さ寒さを感じないため、ふりでしかない。
そんなふりをしたところで、爽やかなグリーンのワンピース姿のレイチェルは、まったく暑そうな印象は受けないけれど。
オニール伯爵邸の庭に設えられた席には、レイチェルの他にも男爵夫人とその令嬢が顔をそろえている。
芝生の緑が鮮やかで、色とりどりの花が咲き乱れる、目にも楽しい庭は、伯爵夫人の自慢らしい。しょっちゅうこうやって客を招き、お茶会を開くとか。天幕の向こうの空は快晴で、絶好のお茶会日和といえる。
テーブルの上には、軽食にハムやミントのサンドイッチ、バタートースト。お菓子はケーキ、スコーン、ビスケットにタルト。
そして忘れてはならない紅茶は、微かに花の薫りがする。今日の主人であるオニール伯爵夫人が、丁寧に淹れてくれたものだ。
パタパタと顔を扇ぐレイチェルの言葉に、男爵令嬢が控えめに頷いた。可憐な水色のワンピースを着た令嬢は、まだ10代頃だろうか。ほっそりとしていて、ふくよかな体系のオニール夫人の半分くらいではないかしら、とレイチェルが密かに心配したくらいだ。
その母親であるところの夫人はやせぎすで、一見すると厳しそうだけれど、微笑む顔が優し気である。
「本当に。ですが、せっかくのお茶会が雨よりはいいですわよね」
「そういえば小さい頃、母がガーデンパーティを予定していたのだけれど、当日は大雨が降って中止になったことがありますの。私も居ていいと言われていたものだから、大泣きしてしまったのを思い出しましたわ」
苦笑しながら言った伯爵夫人に、男爵夫人も笑う。
「あらあら。でもきっと、オニール伯爵夫人のことですから、翌日にはけろりとしていたのでしょうね」
「まあ失礼ね。三日間寝込んだのよ?」
わざとらしく怒って見せる伯爵夫人に、レイチェルも自然と笑みが零れる。おそらく、緊張をほぐそうとしてくれているのだろう。




