心配
クライヴとレイチェルが結婚して、早1か月が過ぎた。
そうは言っても生活は変わりなく、レイチェルが侯爵家での暮らしに慣れてきた頃。その日レイチェルは、オニール伯爵夫人のお茶会に招待されていた。
お茶会は、主に情報交換という名の噂話をしたり、パーティの計画を立てたりする、女性の大事な交流の場。
夜会のように堅苦しくなく、ドレスもコルセットを使わず、ゆったりしたものを選ぶ。ゆるりとお茶とお菓子を楽しみながら、お喋りに花を咲かせるのだ。
今回招かれたオニール伯爵夫人というのは、王の姪、つまりクライヴにとってはいとこにあたる人物である。噂好きと評判の夫人の事だ、いとこの妻が気になるのだろう、とレイチェルは当たりを付けていた。
そんなお茶会へと出かける前に、週に一度の習慣と化しているクライヴの血を貰った後、レイチェルはクライヴを気遣うそぶりを見せる。
「……体調が悪いのではありませんか?」
「何故だ?」
慣れた手つきで傷口を押さえながら言ったクライヴに、レイチェルは少し迷ったが、結局素直に答えた。きちんと答えが帰って来なければ、クライヴは納得しないのはもうすっかり了解済みである。
「血の味が、いつもと違うので」
「そんな事も分かるのか」
目を瞠って驚くクライヴに、レイチェルは笑う。素直に驚いてくれる姿が、レイチェルには嬉しいやら楽しいやら。
クライヴは堅物そうに見えて、表情豊かである。ここ最近は、レイチェルの冗談にもよく笑ってくれる。
「ええ。ヴァンパイアにとって血は、あらゆる情報を手に入れる手段でもありますの。嘘だって見抜けますわ」
「面白いな」
「ええ。本当に。わたくしも最初は驚きましたもの」
「では、感情も分かるのか?」
「……わたくしには答えられませんわ」
その問いには困ったレイチェルだったが、何とかそう返した。そして、クライヴがすんなり頷いてくれたことに、僅かにほっとしたことに気が付く。
こっそり安堵のため息を吐きながら、話を反らすように言葉を続けた。
「あの、それで、体調が悪いのならば……」
「確かに体が重い。が、対した事は無いだろう」
「そうですか?」
「ああ。だから心配するな。早く行きなさい。遅れてはいけないから。いとこ殿によろしく」
クライヴの言葉に頷き、無理はしないでくださいね、と言い添えてから部屋を出た。
そして、パタン、と扉を閉めて、そのままポツリと呟く。
「わたくしは心配しているのかしら。クライヴ様を、本心で……?」
この時のレイチェルにはまだ、その答えは見つからなかった。




