新鮮だった
「結婚してから少しは婦人らしくなったと思ったが、あまり変わらないじゃないか」
ため息を吐きながら言ったクライヴに、フランチェスカが怒った表情をする。そんな顔をしたところで、迫力は欠片も無いけれど。
もちろんそれは本気で怒っているからではなく、二人の子供がいるフランチェスカも、叱る時はきちんと叱る筈だ。……おそらくは。
「あら失礼ね。こう見えて家の事はしっかりやっているんだから」
「ああ、はいはい」
「何よその言い方は。女性に対して失礼では無い?」
「フランは女性だったな、今知ったよ」
「まぁ酷い言い草ね」
そんなじゃれているような二人の姿に、レイチェルは少し驚く。クライヴが誰か、しかも女性と、軽口を叩きあっている姿が、レイチェルには新鮮だった。
結婚してまだそれほど時間は経っていないが、真面目すぎて冗談など通じないのでは、と疑っていたのだ。真正面から、ヴァンパイアだな、と問うてきた時のように。
こんな風な会話も出来るのだな、と目を白黒させるレイチェルにようやく気が付いたのか、二人は咳払いをして、口喧嘩を終わらせた。それからフランチェスカはレイチェルの頭を撫で、慰めるかのように口を開く。
「ごめんなさいね、レイ。あなたの旦那様なのにね。でも大丈夫よ、取ったりしないからね。安心してちょうだい。私には愛する主人と子供たちがいるのだもの。それに、幼馴染以上に思った事なんて一度も無いから、気にしないでね」
「別にわたくしは……」
「こっちから願い下げだ」
「もう。そんな言葉を使って、レイに愛想を尽かされても知らないからね。そんなことよりも、ねえ、レイ。今度家へいらっしゃいね。招待するから。ゆっくりお話ししましょう」
「ええ、フラン叔母様。楽しみにしていますわ」
それじゃあね、と手を振って、フランチェスカは別室の方へ歩いていった。同じく手を振ってそれを見送ったレイチェルは、クライヴに向き直る。
「申し訳ありません、クライヴ様。待っていろと言われたのに、席を離れてしまって」
真っ先にそれを詫びるレイチェルに、クライブは苦笑しながら首を振った。戻ったらソファにいなかったから焦ったのだが、そんな素振りは一切ない。
「いや。フランと話していたのだろう。なら問題はない」
話していたのはたった今で、クライヴが見つけるまでそれほど経っていない。だがレイチェルはあえてそれは口にせず、にこりと微笑む。
そんなレイチェルにクライヴも笑い、どこか照れくさそうに言った。
「この後の食事を終えたら、俺たちも踊ろう」
ダンスが一段落すると、全員が食事をとる時間になる。その後またダンスが始まり、独身者はパートナーを変えながら、既婚者は夫婦で踊る。明け方まで続く舞踏会の、これからが最も楽しい時間だ。
「ええ、もちろんですわ、クライヴ様」
差し出された腕を取りながら、レイチェルは笑って答えた。




