僕ら以外は
「……最初のダンスが始まったね」
レヴィのその声に現実に立ち戻り、目覚めたばかりのように瞬きをする。同時に、こうやって二人で夜会に参加した事が、何度もあった事を思い出した。
軽やかな音楽が耳に心地よい。最初のダンスは、女主人であるコーンウェル伯爵夫人と、この会場で最も地位の高い、クライヴの叔父のエイヴォリー侯爵。その後は未婚の若々しい男女たちが、パートナーを変えながら踊り語らう。
令嬢たちは壁の花になる事を何よりも恐れ、男性から誘いを受けるとほっとした表情を浮かべる。大抵親が望むのは後継ぎの長男だけれど、それだけを当てにしていたら夜が明けてしまう。
結婚前のレイチェルも、疲れるほど踊り明かしたものだった。結婚相手認定されないように、毎回パートナーは変えていたけれど。時にはいい年をして独身の男性と踊り、皆を驚かせたりもした。
今現在人妻のレイチェルは、クライヴとなら踊ることが許される。ただしそれは舞踏会の後半なので、それまでは別室に用意される食事を楽しんだり、どのカップルが結婚するか、予想したりしても楽しい。
この夜会では見かけていないが、過去にはたまに両親や兄の姿を見つけ、姿を隠しながら、あの中にはもう入れないと知って寂しく感じたこともあった。
けれど、レヴィが隣で微笑んでくれれば、そんな事は忘れられる。そして今も、レヴィの微笑みが自分を癒してくれた。
それはこの先もずっと、変わることはないだろう。何せレヴィは、ヴァンパイアとしてのレイチェルの育ての親なのだ。
レイチェルは微笑み、それから楽しげに問いかける。
「今夜のお気に入りは見つかった?」
「駄目だね。みんな美味しそう」
「あらまぁ」
肩を竦めてみせるレヴィに、レイチェルがくすくすと笑う。レヴィにも困ったものだ、と言うように。そんなレイチェルと同じように笑っていたレヴィだったが、不意に真面目な表情を浮かべる。
「レイは、彼でいいの?」
心配そうに首を傾げるレヴィに、レイチェルは笑った。お母様にも言われたわ、と。
「最近退屈していたもの。誰かの奥様というのも、中々に楽しいわよ。それに誰を選んだって、どうせみんな、わたくしを置いていくもの」
「僕ら以外はね」
慰めるようなその口調に、レイチェルはそうね、と小さく笑みを浮かべた。この先何度別れが訪れようと、レヴィが側に居てくれる。少なくとも、後何百年かは。それがレイチェルには心強く、嬉しかった。
「いつでも帰っておいで」
「ええ。ありがとう」
「それじゃあ僕は帰るよ。またね」
ひらひらと手を振って、レヴィはテラスを飛び越え、軽々と地面に着地した。そして、見下ろしてくるレイチェルにもう一度手を振って、姿を消したのだった。




