法螺話もいいところ
もう一枚クッキーに手を伸ばしたところで、レイチェルは口を開く。慣れたかと問われても、まだ2ヶ月ほどしか経っていないのだと気がついた。
「どうかしら。血の味にはまだ慣れないけれど。でも今朝ね、薔薇の棘で刺した傷がすぐ治ったとき、すんなり納得したのよね。ああ、わたくしはもう人間じゃないのねって。目が覚めた時も、人間ではない事は分かっていたのだけど。実感したのは今日だったわ」
「そっか」
レヴィは微笑みながら、お盆に乗せたティーカップとティーポットを運んでくる。それぞれのカップを卓上に置き、紅茶を注ぐと自分も席についた。
細やかなお茶会が、二人の習慣だった。話し相手がいるというのは、お互いに嬉しいことである。天気がよければ外で取ることもあるけれど、あまり日に焼けたくないと思うのは、レイチェルが人間だったからかもしれない。
「……それにしても、鳥籠なんて名ばかりね。鍵があるわけでもなく、出入りは自由。こうやって食材も運んでくれる。ただの人だった頃は、教会が素晴らしいから、ヴァンパイアなんて怖くないんだと思っていたけれど」
法螺話も良い所だわ、とレイチェルは息を吐いた。
今の時代も数が減ったとはいえ、ヴァンパイアには人間以上の力がある。屋根から屋根にも自在に飛び移れ、足も風のように速く、ヴァンパイア一人で成人男性三人分の力を持つ。自らの血を操って、武器にする事さえできるのだから。
人々は、教会を信じ切って、ヴァンパイアを軽視するべきでは無い。そんな事を考えるレイチェルに対して、レヴィはニコニコと楽し気に笑いながら口を開いた。
「僕らは化け物だけど、理性の無い獣ではないからね。人間がそう思っているならそれでいいよ。あまり恐怖を煽るような事はしたくない。血を貰えなくなったら困るでしょ。教会から支給される分だけじゃ足りないし。教会だって、それは重々承知だ。教会が僕らをある程度自由にさせてくれるのは、下手な争いを起こさせないためだよ」
「わたくしをヴァンパイアにする事を、容認したのも?」
「前にも話したけれど、死後ヴァンパイアになった君の場合、僕らや混血ほどの力は無いからね。大目に見てくれたんだろう。ある程度慣れたら、伯爵家に帰してもいいってさ」
「そう……」
帰っても、自分を迎え入れてくれるかどうか、レイチェルには少し不安だった。それを隠すためか、無意識にクッキーへ手を伸ばして口に入れる事を繰り返す。
レイチェルのその姿を、レヴィは微笑ましそうに見つめていた。




