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侯爵様はヴァンパイアを妻にお望みのようです  作者: リラ
思い出は星のように、銀色に
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おなじこと

ひと通り挨拶を終えた頃、レイチェルが軽く息を吐く。クライヴは壁際へとレイチェルを誘いながら、その顔色を窺った。薔薇色の頬をしたレイチェルは麗しく見えるが、僅かに微笑みがぎこちない。


「……疲れたか?」

「ええ、少し。妻として挨拶するのは、意外と気を遣うものですのね」


クライヴの気遣いに、レイチェルは淡く微笑みながら答えた。婚約者がいたレイチェルは、嫁入り修行として、母から多くの事を覚えさせられたものだ。主に、如何にして夫を立てるか、という方法を。


結婚に乗り気では無かったレイチェルは、それを渋々受けていた。後に解消した時には、やっとそれからも逃げられる、と思ったほど。今夜はそれが役立ってしまって、少しだけ悔しいレイチェルだ。


「何か飲み物を貰って来よう。そこに座っているといい」


そう言ってクライヴが背を向けると、レイチェルはクライヴが示したソファに沈みこんだ。深紅のベルベッドのソファは柔らかく、無意識にふう、と息をついた。


クライヴが戻って来るまで手持無沙汰のレイチェルは、広間をゆっくりと見回してみる。多くの人間が集まるこの場所は、ヴァンパイアにとっても楽しい場所だ。これだけの人数がいれば、どこかの子息や令嬢として紛れ込めんでもまずバレない。ただし、教会の人間を除いて。


教会の人間は地区毎におり、その地区のヴァンパイアの顔と名前をすべて把握している。常に三人で行動し、銀の弾丸と聖水を携帯していた。もちろん、それを使う事態にならないという事が、最も重要な事である。


教会の教えの中に、ヴァンパイアには最早昔のような力はなく、飼い慣らしているため危険は無い、というものがある。レイチェルも人間だった頃はそれを信じていたが、そんなものは嘘だ。ヴァンパイアにはかつてと同じ力があるし、普通の人間では対抗できない。


それを教会も知っているはずなのに隠しているのは、ひとえに、人間たちを安心させるため。鳥籠のヴァンパイアもこれを承知しているのは、千年前のような争いを繰り返す気が無いため。


いわば、持ちつ持たれつ。ヴァンパイアと教会の良好な関係があるからこそ、この国の平和は保たれていると言っても過言では無い。


教会は人を守り、ヴァンパイアを守る。それはひとえに、世の安寧の為。千年前の戦いで得た物は多大なる犠牲と、傷跡と悲しみだけ。それをもう二度と繰り返さないと願うのは、人間であろうと、ヴァンパイアであろうと、同じ事なのだ。


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