ヴァンパイアのお嬢さん
レイチェルは、血をためつすがめつしているクライヴを見つめ、小さく笑う。まるで少年のような横顔が、少しだけ可笑しかった。
かつて鳥籠で、二度目の生を受けて初めて目覚めた時、レイチェルがそれをすんなりと受け入れられたのは、レヴィがいたからだ。
レヴィはひとつひとつ丁寧に、ヴァンパイアを語った。レイチェル自身、自分がもう人間ではない事は理解していたから、そういうものなのだと、不思議に思う事もなかった。
けれどクライヴにしてみれば、不思議な事だらけだろう。興味津々なその様子が、レイチェルには新鮮に映る。
社交界を遠慮していたレイチェルは、唐突に舞い戻ってから、『ヴァンパイアのお嬢さん』と呼ばれるようになって、どちらかと言えば遠巻きにされていた。
その呼び名は、本当にヴァンパイアだと思っているわけではなく、ただの悪口。そんな女にクライヴが興味を持つとは、きっと誰も考えていない。
この結婚に皆がどんな憶測をたてているか、想像するだけで面白かった。
「わたくしは元は人間ですから、純粋なヴァンパイア方と違って、血を操る事は出来ませんけれど、その血がお役にたつと良いですわ」
ふと、思いついてそう言ったレイチェルを、クライヴが振り返り、また興味深そうな表情を浮かべる。
「鳥籠の彼らには、そんな事が出来るのか?」
「ええ。血を連絡手段としたり、武器にしたりですとか。本にも書かれてありますわよ」
「読んだ事はあるが、迷信か何かかと。ちなみに、この血を飲むとどうなる?」
「特に何も起こりませんわ。わたくしの血は、友人のサミュリアによると、薔薇の香りがするとか。けれど普通の人間にとっては、ただの血でしょうね」
レイチェルの言葉に、クライヴは瓶の栓を開けて匂いを嗅ぎ、次いで少し指にとって舐める。
それから、すぐに顔をしかめたクライヴに、レイチェルはくすくすと笑い声をたてた。
「……何と言うか、確かにただの血だ」
「クライヴ様もヴァンパイアになれば、分かるでしょうね」
それはいい考えだ、という言葉に、ご冗談を、と返したところで、クライヴが思い出したように口を開く。
「そうだった。来週、コーンウェル伯爵の夜会に招かれたのだが、一緒に来るだろう?」
「ええ。もちろん。喜んでお供いたしますわ」
レイチェルが笑って答えると、クライヴは頷いて部屋を後にする。
そちらの方が重要な用件なのでは、と苦笑しながらそれを見送ったレイチェルは、早速どのドレスを着ようかと、考えを巡らせるのだった。




