花のように笑う
「聞いておいて何だが、もっと躊躇うのかと思ったぞ」
人間にももちろん、血は生きる為に必要なものだ。そして、それがヴァンパイアともなれば尚更。
人間以上の血を必要とするヴァンパイアに、血をくれと頼むのは、愚かな事なのではないだろうか。自分で言っておきながらそんな事を考えるクライヴに、レイチェルは言った。
「あら。協力すると言ったのはわたくしですわ。それにクライヴ様は、この血を悪用するわけでは無い事は知っていますから。お安いご用ですわよ。さぁどうぞ、お好きなだけ」
花のように美しく笑うレイチェルに、クライヴは安堵するべきか、呆れた方が良いのかどうか、少し迷った。
強引に結婚したものだから、出会ってまだそんなに時間は経っていない。そのせいか、少し面映ゆい気がしてしまうのだった。
意味ありげな視線を交わし合う令嬢たちと違って、レイチェルの言葉は真っ直ぐだ。クライヴとしても、その方が好ましいのだけれど。
「……うむ。では、少しだけ」
そう言いながらクライヴは、ナイフと小さな小瓶を懐から取り出した。そして遠慮がちに、レイチェルの腕を切り裂き、瓶をあてがう。しかし、表面がうっすらと切れただけで、それほどの血は出でいない。
するとレイチェルは笑って、クライヴの手からナイフをさらりと奪い、自らさらに傷を作る。溢れた血が、瓶にこぼれ落ちていく。クライヴは驚いてそれを見ていたが、途中で我に返ったのか、慌てたように瓶に栓をした。
「レイチェル。大丈夫なのか、それは」
心配そうに言ったクライヴにレイチェルは小さく笑い、腕の傷を掌で抑える。数秒後、レイチェルがその手を離した時には、血の痕は残っているものの、傷跡はどこにも見当たらなかった。
レイチェルは自らの血を舐め取ると、楽しそうな顔で笑う。それこそ、初めは自分でも驚いたものの、とっくに慣れっこだった。
「これくらいの傷であれば、すぐに塞がりますわ。腕を切られたって再生しますし。さすがにそれは血が足りないと無理ですけれどね」
「文献に書いてはあったが、間近で見たのは初めてだ」
「当然ですわ。人の前で怪我をするような失態をしないよう、常に心がけておりますから」
それは、人を守る為でもあった。ヴァンパイアも大怪我をすれば、大量の血液を必要とする。もしもその場に人が居ればどうなるか、火を見るよりも明らかだ。
そんな事になれば、教会が処分を検討しなければならなくなる。教会もヴァンパイアも、極力争いを避けたいのは同じだ。




