試してみる?
「そのような顔はしないでください。おかげで、こうして旦那様に拾われ、人並みの生活が出来ているのですから。旦那様には感謝してもしきれません」
そう言って穏やかに笑う顔に、悲しそうな影はこれっぽっちもない。レイチェル自身、父親に愛されているとは思っていないけれど、少なくとも必要な物は与えてくれていた。
「でもどうして?ただ目の色が違うだけでなんて。嫌っているにしても、養子に出すとか、もっと別の方法があったでしょうに」
「奥様は優しいのですね。彼は金にも困っていたようですし、それだけではなく、私には、ヴァンパイアの血が流れているのもあったのでしょう」
「え? そんなまさか。まったくそんな風には感じられないわ」
「この目がその証です。遠い母の血筋に居るらしくて、何代か毎に血が発現するのだとか。教会から見ても珍しいようですが、ヴァンパイアと違って血を必要とするわけでもないので、ただの人と変わりありません」
「だから私にも分からなかったのね」
レイチェルに限らず、ヴァンパイアは同胞の気配には敏感だ。だから、舞踏会などでは必ず、真っ先にそれを探る。間違っても、同胞の血を飲まないように。
ヴァンパイア同士で血を飲むという行為は、恋人か夫婦間。もしくは、レイチェルのように血を与えられたものと、その血を与えたものの間でだけ行われる。
いわば、愛情表現のようなものなのだ。うっかり間違えようものなら、強制的にその相手と結婚する事になる。
人間の血を飲むのは戯れでもいいが、同胞の血を飲むということは、それだけ重要なことなのである。
納得して頷くレイチェルに、イライアスは小さく笑う。年下の女主人はそうしていると、年相応にしか見えなかったのだ。
ヴァンパイアを妻にしたと聞いて、一体どんな人が来るのだろう、と思っていたイライアスだけれど。
「奥様も、あまりヴァンパイアには見えませんね」
「……試してみる?」
意外でしたと笑うイライアスに、レイチェルはそう言って妖しげな笑みを浮かべた。気がつくと、いつもは榛色のその瞳が、深紅に輝いている。
幾度となくこうやって男を誘い、喉の渇きを癒してきたか。レイチェルにはもはや分からない。血をあまり必要としないレイチェルにとっては、ただの遊びだったが。
一日一日が長いレイチェルは、そんな楽しみでもなければ、退屈で灰になってしまう。と、よく言っていたものだ。
もちろん、人間だった頃も、夜会やお茶会は好きだった。けれど、そういった場では大抵、誰もが猫を被っているから、レイチェルには今の方が楽しいのだった。




