はぐれヴァンパイア
「そなたは、はぐれヴァンパイアなのか、レディ・エイヴリー。いや、エイヴリー伯爵の娘というのは偽りか?」
彼の言うはぐれヴァンパイアとは、教会の管理外のヴァンパイアの事。教会に登録されていない、もしくは、抹消されたヴァンパイア。
ただ、この国のヴァンパイアにとって、教会に管理される事も、そう悪い事では無い。いくつかの決まり事を守っておとなしくしていれば、定期的に血を与えてくれるのだから。
餌を取るのに無駄な労力を使わなくて楽、というのがヴァンパイアたちの本心であったが、表面上は大人しく、粛々と、教会からの施しを受ける。
中には、化け物を飼い慣らしているのだ、と優越感に浸る愚かな下っ端もいたが、それはそれ。永い永い時を生きて来た彼ら彼女らは、人間を狩るのも飽きたとでも言いたげに、そう思われている事すら楽しんでいる節があった。
だから、この国に住むヴァンパイアは自由気ままに、悠々と暮らしているのである。時に夜会に参加するのは、ご愛嬌。大きな事件でも起こさない限り、教会も目を瞑ってくれる。
はぐれヴァンパイアは、そんな彼らの中からはみ出してしまったもの。教会にさえ見捨てられ、狩られるだけの存在。そうこの国では認識されている。
今までも、そういったヴァンパイアたちは全て、教会に狩られてしまった。故にこの国の人々は、教会は偉大であると信じ、ヴァンパイアを恐れる事も無い。
人間たちがはぐれヴァンパイアと呼ぶときは、その者を侮辱する時だ。それを彼女も知っていたが、男の問いかけには、面白い冗談を聞いたかのように、ゆったりと笑った。優雅さの中に、怪しげな光をその瞳に宿して。
「いいえ?わたくしはきちんと聖教会に登録がありますし、伯爵の娘というのも本当でしてよ。お母様が死んだわたくしをヴァンパイアへ渡して、蘇らせたのですわ」
「ほう。元は人間だったのか。だがそうすると、鳥籠の数と合わないな」
「確かに、現在の鳥籠は6。純粋なヴァンパイアだけが、鳥籠に入るのです。それ以外の者は教会に登録するだけであって、鳥籠で生活する必要はないんですのよ。わたくしのような者は、ヴァンパイアとして生きるのを学ぶため、一時期は暮らしますけれど……。それはともかく、わたくしをどうします?勝手に血を頂いたというかどで、教会に連れていきますの?無駄だと思いますけれど」
口元に笑みをのせたまま、彼女は問いかける。これに対し、彼も笑みを浮かべて答えた。