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侯爵様はヴァンパイアを妻にお望みのようです  作者: リラ
開幕は音曲のように、軽快に
18/120

千年前

──今から千年前。世界中で人間とヴァンパイアは戦っていた。


現在よりも、教会の力が強大だった頃。現在よりも、ヴァンパイアが多くいた頃。そして現在よりも、人間がヴァンパイアを憎んでいた頃。


その当時、教会側とヴァンパイア側の関係は殺伐としていた。中には教会に協力的なヴァンパイアもいたが、多くは人間を餌のようにしか思っておらず、人を襲ってはその血を貪っていた。


人々はヴァンパイアの脅威に怯え、嘆き、家族を奪われた者は恨みを募らせる。そんな中で教会により組織されたのが、ヴァンパイアを狩る為の精鋭部隊。ヴァンパイアの弱点である銀の弾丸と聖水を持ち、特別な身体強化を施された者たち。


狩っては狩られ、血で血を洗う、悲惨な物だったと言う。後にそれは文字通り、というよりは安直に、『血の戦争』と呼ばれるようになる。


これにより、ヴァンパイアの約半数が滅ぼされたという。残りの半数は、それでも戦い続けるものと、身を隠すものとに分かれた。


その身を隠したものの中に、一人の女性のヴァンパイアがいる。彼女は故郷を捨て、人に混じって生活する事を選んだ。年を取らない事を不自然に思われないように、あらゆる国を転々としながら。


彼女がある国にたどり着いた時、彼女はその国の王に見初められた。初めは抵抗し、自分が何者なのか明かしさえしたが、それでも、と王は彼女を側に置いたのだ。


王の優しさに、彼女は徐々に打ち解け、王を愛するようになった。心優しく、穏やかに、二人は愛を育んだ。


しかし、やがて王は年を取る。王の彼女への愛情は変わらなかったが、日に日に衰えていく王を見る事が、彼女には辛かった。この人は自分を置いて行くのだという、現実が。


それを悟った彼女は王の前から姿を消し、教会を訪れた。この国の教会は、ヴァンパイアに対しても比較的理解を示している。教会は彼女を、森の中に作った特別な屋敷に住まわせた。


彼女はそこで命尽き灰になるまで、行き場のなくなったヴァンパイアを保護し、教会もそれを了承した。これが、鳥籠の始まりである。


いくつかの国では、必ず一つは鳥籠があるという。ヴァンパイアとの戦いで多くの犠牲を払った教会は、ヴァンパイアを狩るよりも、近くに置いて見張る事を選んだのであった。


今や、世界中で百人にも満たないと言われるヴァンパイアの驚異は忘れ去られ、人々は教会による安寧を手にいれた。


それでもヴァンパイアは、比較的人の近くに存在する。寿命はあるけれど、長きに渡って人間を観察していた彼らには、人に紛れるなど造作もない。


鳥籠の彼らが時に、街で買い物や食事をして、夜会に出没しているなんて、きっと想像もしていないに違いない。


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