楽しい食事
その後、夕食の時間です、とエディが呼びに来て、二人は食堂へ向かう。
食堂は、家族しかここで食事を取る事が無いからか、こじんまりとしていた。長方形のテーブルには白いクロスがかけられ、椅子が四脚置かれている。
窓にかかったカーテンは深い青。一番奥のマントルピースには、真っ赤な薔薇が生けられていた。
二人が向かい合って席につくと、すぐにエディが料理を運んできた。メイドがいないのは不便なのでは、と思ったレイチェルだが、エディはすっかり慣れた様子だ。
順番に運ばれてくれる料理に舌鼓を打ちながら、とりとめもない会話をする。
レイチェルには、ヴァンパイアになってから、家族全員で食事をとった記憶がない。家族に遠慮してレイチェルはいつも一人、部屋で食事をとっていたから。
こんなに楽しい食事は、鳥籠にいた以来だわ、と心中でレイチェルは呟く。やがて食事が終わる頃、エディがクライヴの元へやって来た。
「旦那様。教会から奥様宛に荷物が届いておりますが、こちらへお持ちしますか?」
エディの言葉に、クライヴはすぐに合点がいったようだった。笑いながら、冗談めかして口にした。
「ああ。きっとレイチェルのデザートだな。教会は仕事が早い。持ってきてくれ」
「その言い方はどうかと思いますわ。エディも困って……、あら?」
レイチェルが首を傾げたのは、エディがすぐに頷き、食堂を出ていったからだ。少しも困惑した様子が無かったのが、不思議だった。
その答えを、再び笑いながらクライヴが告げる。
「言い忘れていたが、そなたがヴァンパイアだということは、この家の皆が知っている。隠し通せはしないからな。もっとも、隠す気もなかったが」
「そうでしたの。これまで外では隠して参りましたから、それが当然かと」
「この屋敷では好きにしていい。ああ、そうだ。レイチェル、本は好きか?」
「ええ。好きですわ。時間を潰すには一番ですもの」
「では、暇な時は書庫で過ごすといいだろう。祖父が本好きでな。あらゆる書物があるぞ。中には、王宮とここにしかない書物もあるくらいだ」
「まあ。それは是非とも読んでみたいですわ。ありがとうございます」
と、二人がそんな会話をしていると、その手に銀色の箱を持ったエディが戻ってくる。それを机の上に置き、レイチェルが蓋を開けると、透明な瓶が三本納められていた。
レイチェルの手の平程の大きさの瓶には、赤黒い液体が詰められている。これが、教会から支給される血だ。