それは何より
「それにしても、こうして話してみると、本当に普通の人間と変わらないな」
レイチェルのこれまでの生活の話を聞いていたクライヴは、そう言うとしげしげとレイチェルを見つめる。一方レイチェルは、不快そうに眉を顰めた。
ヴァンパイアでなくとも、不躾な視線は不快に決まっている。あえてそういう視線を集めたがる人も居るけれど、どちらかといえば、レイチェルはあまり目立ちたくはない。
「先ほども言いましたでしょう。心臓が止まっている事、夜眠らない事、体温が極端に低い事。それから、たまに血が必要な事。それ以外は普通なのですわ。わたくしも、鳥籠のヴァンパイア方だって、食事も人と同じものを食べますし」
「何故、心臓が止まっているのに活動出来るのだろうか?」
「人間とは体の構造自体が違うからでしょうね。詳しい事はわたくしも知りませんけれど」
「なるほど。ちなみにその鳥籠とは、どのような場所なんだ?」
「そうですわね……。わたくしがいたのは、森の奥深くの家でしたわ。レヴィ、わたくしに血を与えてくれた彼と、緑に囲まれて静かに過ごしました。教会の監視付でしたけれど、彼らも意外と気さくに話してくれるのですよ。鳥籠とはいえ、居心地はよかったですわね。友人もいますから」
「ならば、彼らにとっても住みにくくはないという事か」
それは何よりだ、と頷く姿に、レイチェルはくすっと笑う。そんな事を言う人間には、一度も出会った事が無い。誰もが鳥籠を檻のようなものだと思っているし、そこでの生活に関して無関心だった。
レイチェル自身、生きている間はそうだったから、そんな人たちに腹を立てるような事も無いけれど、やはりクライヴのように思ってくれる人がいるというのは、単純に嬉しい。
「クライヴ様は、彼らともすぐに仲良くなれそうですわね」
「そうか?」
首を傾げる姿に笑い、そういえば、と口を開いた。ずっと不思議に思っていた事があったのだ。
「あの夜、どうしてわたくしがヴァンパイアだとお分かりになったのです?」
夜会で血を貰う時、もちろんレイチェルは細心の注意を払う。純粋なヴァンパイアであれば、目撃者の記憶を消すくらいの事はやってのける。けれどレイチェルの場合、せいぜい血を飲んだ相手の記憶を混濁させるくらいが関の山。
だからあの夜クライヴに見つかってしまった時、内心では物凄く動揺していたのだ。それを見せないように、笑っていたのだけれど。
「そのことか。別に分かって後をつけたわけでは無い。ただ、あの男はあまりいい噂を聞かないからな。少し気になって」
「心配してくれたのですわね。ですがそういう方の方が、誘いやすいのですわ」
「そのようだな。だが、おかげでそなたと会えた」
笑ってそんなことをさらりと言うのは、勘違いさせてしまうだろう。そんな事をレイチェルは思ったが、一先ず聞かなかった事にする。