知りたい
クライヴはゆったりと椅子に腰かけ、足を組む。その様だけを見れば、変人侯爵などと陰口を叩かれているような人には見えない。
そもそも変人と呼ばれるのは、貴族階級に属する者には重要な社交界に、クライヴがあまり出席しないからであり、結婚しないのは変わり者だからだ、とまことしやかに囁かれるせいである。
本人がそれを否定しないのを良いことに、クライヴの人となりについて、あらゆる噂が流れているのだった。
「あの夜、俺はヴァンパイアの生態を知りたいと言ったが、何も切り刻んで研究しようというわけではない。ただ、普段はどのように生活しているのかと、その血について調べさせてほしいだけだ」
「一つだけ確認したいのですが、それを知ってどうなさるのです?」
首を傾げるレイチェルに、クライヴは口ごもる。躊躇っているのか、言いかけてはやめて、はっきり言わない。
「……クライヴ様?」
しばらくして、レイチェルが僅かに苛立ったように名前を呼んでようやく、観念したように口を開いた。
「ただ知りたいだけだ、と言ったら、怒るか?」
思いがけない言葉に、レイチェルはきょとんとした顔をする。もっと明確な理由があるものと、レイチェルは思っていたのだから。
そんな顔をすると幼さが顔を覗かせて、ヴァンパイアであるという事が、嘘のようだった。クライヴはそんなレイチェルに苦笑しながら、言葉を続ける。
「ずっと不思議だった。何故誰も、ヴァンパイアについて詳しく知ろうとしないのかと」
「それは、血を啜って生きる穢れた存在の事なんて知りたくもない、と思うのがこの国では当然だからでしょう?」
「そうだな。だが、同じ国に暮らしているのに、何も知らないというのは失礼ではないか?知った上で軽蔑するならまだわかるが、我々の多くはヴァンパイアの表面しか知らないのだ。みんなが言っているから、というのは軽蔑する理由にはならない。レイチェルともこうして、普通に会話しているからな」
クライヴの言葉に、レイチェルの瞳が次第に見開かれていく。そして、レイチェルの口元に笑みが浮かぶ。最初はくすくすと笑っていたが、最終的には声を出して笑っていた。
「そんなに笑わなくてもいいだろう」
「ふふ。すみません。何だか、嬉しくて。お父様も、あんなに優しかったお兄様さえも、わたくしがヴァンパイアとして戻って来た事を嫌悪し、遠ざけていたのに、あなたは知りたいと思うのですね」
他のヴァンパイアたちも、この言葉を聞いたら喜ぶだろう。そう思って、レイチェルは笑う。それにつられたのか、気づけばクライヴも優し気な笑みを浮かべていた。