陽射しが降り注ぐ
「まあ。素敵なお部屋」
部屋に入って、レイチェルの口から真っ先に出て来たのが、その言葉だった。その隣で、クライヴが満足そうに笑っている。
青と白で統一された家具。奥に隣接するサンポーチには、小さな椅子と机があり、窓からは陽射しが降り注いでいた。
「……本当に、わたくしがこの部屋を使ってもよろしいのですか?」
この結婚は、ただの戯れ。お互いそのはずだ。だからもったいない、とレイチェルは思ったのだが、それが顔に出ていたのか、クライヴが笑いながら言った。
「妻を粗末な部屋に寝かせるほど、変人ではないつもりだ。亡くなった両親にも叱られてしまう。元々は妹が使っていた部屋だがな、今は嫁いでもう使っていない。掃除もしたから問題はないぞ」
「そういえば、他の使用人の姿を見かけておりませんわね。どちらに?」
当然、掃除は使用人がしたのだろう、と思いながらも、使用人がいないのを不思議に思っていたのだ。領地にある屋敷より小さいとはいえ、伯爵家の町屋敷には常に使用人たちの姿があったものだ。
レイチェルのそんな質問に、クライヴは苦笑しながら首を振る。
「この家の使用人はさっきのエディと、料理人のイライアスだけだ。領地の方にもう一人いるが、そちらは追々でいいだろう」
何故そんなにも少ないのだろう、とレイチェルは訊ねようとしたが、その答えはすぐにクライヴが口にした。
「父の代には大勢いたが、俺に付き合いきれず辞める者が多くてな……。すまない。言い忘れていた。身の回りの世話は、自分でしてもらうことになる」
「それでしたら大丈夫ですわ。大抵は一人で出来ます。ただ、夜会のドレスはさすがに無理ですので、その日だけは、臨時で雇っていただければ」
「分かった。では、着いて早々だが、今後について話し合いたい。いいだろうか?」
「ええ。構いませんわ」
レイチェルが頷くと、クライヴはレイチェルを誘い、サンルームの椅子に腰かけた。窓の向こうには王城が見える、特等席だ。
ヴァンパイアにとって、日の光は有害では無い。確かに夜活動することが多いが、それは単に、多く人が集まる舞踏会などが夜にあるからに過ぎない。
日の光や十字架が苦手だとか、そんなものはもはや迷信だった。
クライヴもそれを知っているから朝に迎えに来たのだろうし、こうやってサンルームにも誘う。レイチェルの部屋に、最も日当たりのいい部屋を選ぶ。
でなければ、昔の迷信を信じて、ヴァンパイアを殺そうとしたという事になってしまう。