穏やかな午後
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「──レイ。ちょっと手伝ってくれないかな」
食堂の方から聞こえたレヴィの声に、隣の居間で本を読んでいたレイチェルは立ち上がった。
顔を覗かせると、レヴィはティーカップを出している所だった。食べ物をそっちに運んで、と言われるままに、お盆を手にしたレイチェルはテーブルの方へ運んでいく。
ドライフルーツがたっぷりのケーキと焼き菓子。軽食のサンドイッチ。その後からレヴィが、三つのティーカップを持ってくる。
「あら?」
レイチェルが不思議そうに首を傾げると、ティーポットにお湯を注ぎながら、レヴィは笑みを浮かべた。
「もうすぐ帰って来るから。……ほらね」
言っているそばから、玄関扉が開く音と閉まる音がして、足音が聞こえてきた。驚いて目を丸くするレイチェルに、レヴィはウィンクして見せる。
それから少しして足音の主が姿を見せ、二人は笑って出迎えた。
「おかえりなさい、クライヴ様」
「おかえり。意外に早かったね」
二人の笑みに迎えられたクライヴは、安堵したように笑った。
「ああ、ただいま。お茶に間に合って良かったよ」
そう言ったクライヴに座るように促して、レイチェルも席に着く。レヴィはポットから紅茶を注ぎ、全員に配ってから腰を落ち着けた。
春の陽射しが柔らかく、窓のステンドグラスに光を与えている。いつにも増して、穏やかな午後だった。
「それで、どうだった?」
ケーキを取り分けながらレヴィが問いかけると、クライヴは紅茶を飲んで一息ついてから、口を開く。
この日クライヴは、爵位と領地を陛下に返上するために、王宮へ出向いていたのだ。
「手続きは全部終わった。これで心置きなくここで暮らせるというものだ」
「国王は何て?」
「まだ早い、と言われた。まぁそれはそうだろうな。まだ2年ほどしか経っていないのだから。だが、陛下も今の俺の状況を知れば、受け入れざるを得なかったのだろう。体には気を付けろ、と送り出してくださった」
「後は誰が?」
「いとこがやってくれるそうだ。すでに爵位を持っているが、それを息子に譲ると。それまでは兼任という事になるが。今の屋敷の三人もそのまま雇ってくれる」
「それは良かった。ね、レイ」
ケーキを口に運びながら、静かに聞いていたレイチェルは、フォークを置くと、僅かに目を伏せる。
「クライヴ様は本当に、これで良かったのですか」
「どういう意味だ?」
「……クライヴ様は若くて、まだまだこれからの人でしょう?」
「特に惜しくはないからな」
晴れやかな顔で言ったクライヴに対して、レイチェルは浮かない顔をしていた。唇を噛みしめ、沈黙する。