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侯爵様はヴァンパイアを妻にお望みのようです  作者: リラ
真愛は泡雪のように、静かに
119/120

穏やかな午後

──


───


────……




「──レイ。ちょっと手伝ってくれないかな」


食堂の方から聞こえたレヴィの声に、隣の居間で本を読んでいたレイチェルは立ち上がった。


顔を覗かせると、レヴィはティーカップを出している所だった。食べ物をそっちに運んで、と言われるままに、お盆を手にしたレイチェルはテーブルの方へ運んでいく。


ドライフルーツがたっぷりのケーキと焼き菓子。軽食のサンドイッチ。その後からレヴィが、三つのティーカップを持ってくる。


「あら?」


レイチェルが不思議そうに首を傾げると、ティーポットにお湯を注ぎながら、レヴィは笑みを浮かべた。


「もうすぐ帰って来るから。……ほらね」


言っているそばから、玄関扉が開く音と閉まる音がして、足音が聞こえてきた。驚いて目を丸くするレイチェルに、レヴィはウィンクして見せる。


それから少しして足音の主が姿を見せ、二人は笑って出迎えた。


「おかえりなさい、クライヴ様」

「おかえり。意外に早かったね」


二人の笑みに迎えられたクライヴは、安堵したように笑った。


「ああ、ただいま。お茶に間に合って良かったよ」


そう言ったクライヴに座るように促して、レイチェルも席に着く。レヴィはポットから紅茶を注ぎ、全員に配ってから腰を落ち着けた。


春の陽射しが柔らかく、窓のステンドグラスに光を与えている。いつにも増して、穏やかな午後だった。


「それで、どうだった?」


ケーキを取り分けながらレヴィが問いかけると、クライヴは紅茶を飲んで一息ついてから、口を開く。


この日クライヴは、爵位と領地を陛下に返上するために、王宮へ出向いていたのだ。


「手続きは全部終わった。これで心置きなくここで暮らせるというものだ」

「国王は何て?」

「まだ早い、と言われた。まぁそれはそうだろうな。まだ2年ほどしか経っていないのだから。だが、陛下も今の俺の状況を知れば、受け入れざるを得なかったのだろう。体には気を付けろ、と送り出してくださった」

「後は誰が?」

「いとこがやってくれるそうだ。すでに爵位を持っているが、それを息子に譲ると。それまでは兼任という事になるが。今の屋敷の三人もそのまま雇ってくれる」

「それは良かった。ね、レイ」


ケーキを口に運びながら、静かに聞いていたレイチェルは、フォークを置くと、僅かに目を伏せる。


「クライヴ様は本当に、これで良かったのですか」

「どういう意味だ?」

「……クライヴ様は若くて、まだまだこれからの人でしょう?」

「特に惜しくはないからな」


晴れやかな顔で言ったクライヴに対して、レイチェルは浮かない顔をしていた。唇を噛みしめ、沈黙する。


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