確かめるように
クライヴ様、と声にならない声で、レイチェルが名前を呼ぶ。
どうしてここにいるのか、今のを聞かれていたのか、といった疑問がレイチェルの脳裏に渦巻く。が、こんな事を考え付くのを、レイチェルは一人しか知らない。
ここに自分がいて、クライヴもいるという事は、おそらくそういう事なのだろう。アインツ公爵からの招待状を持ってきたのは、他ならぬレヴィだ。
当初は、行けなくなった夫妻の代わりに、という話だったはずだけれど。何故レヴィに、と疑問に思うべきだった。どうやら、仮面舞踏会に浮かれていたようだ。
レイチェルは少し前の自分を恨みつつ、さっとレヴィを振り返り、怒った顔で睨み付けた。
「レヴィ。謀ったわね?」
その視線の先のレヴィはというと、間違いなく、今の状況を楽しんでいる。企みが成功して、喜んでいるのだろう。にこやかな顔をしている。
それから、クライヴに後を譲るように立ち上がり、レイチェルを見下ろした。
「やだなぁ人聞きの悪い。手助けだよ。しょうがない子たちのね」
「余計なお世話よ!」
「怒っても可愛いね、僕の小鳥は」
その言葉と笑みに無性に腹が立ち、レイチェルは素早く立ち上がって手を振り上げたが、レヴィは軽やかに後ろへ飛んで避けた。そして。
「さて。僕は麗しの美女でも捜して来ようかな。どうぞ侯爵。後はごゆっくり。じゃあね」
と言うと、二人に背を向けて歩き出す。その後を追い駆けようとしたレイチェルだったが、後ろから腕を掴まれ、阻まれる。
「レイチェル。先程の言葉は本当か?」
同時にそう問いかけられ、レイチェルは手を振りほどく事に失敗した。
悪あがきのように唇を引き結ぶが、さらにクライヴは言い募る。
「俺を愛しているというのは、本当か?」
確かめるように、先ほどよりも強めの声がレイチェルの鼓膜を揺らす。
レイチェルは首を横に振ろうとして、けれど、それにはもう何の意味もないと気がつき、小さく息を吐いた。
言わなければ、クライヴは引き下がりはしないだろうと思ったから。痛いほどに掴まれた腕が、それを裏付けている。
聞かれてしまった以上は、仕方がない。それに、とレイチェルは自嘲気味に笑う。
(わたくしは、こんな時なのに、嬉しいと思っている。クライヴ様は、そんなつもりではないでしょうに……)
クライヴの思いを知らないレイチェルは、そう考えてしまう。それでも伝えなければ、この先何百年も後悔してしまうだろう、と思った。
だから、レイチェルは意を決したように口を開く。