笑っている君が好き
ただ、そんな誓約は真っ平御免、と考えるものが多いのか、そうしたヴァンパイア同士の結婚は、昨今ではあまり見受けられないけれど。
おかしな話だが、ヴァンパイアでも人間と同じように、手順を踏むかしているようだ。
「……それをわたくしに確認させるために、ここに連れてきたのね?」
察しがよくて助かる、と微笑むレヴィをレイチェルは睨み付けたが、当人はどこ吹く風。
「だってさ、こうでもしないと、君は他の血を飲まないでしょ」
「だけど、どうしてあなたの血は飲めるの?」
「それはね、僕の可愛い小鳥のレイ。君が僕の血で生まれたヴァンパイアだからだよ。サリーの血は飲まないと分かっていたから、どうやって確かめようかと思っていたんだけれど。アインツ公爵が居てくれて良かったよ」
「どうして?別に、知りたくなかったわ」
声を震わせながら言ったレイチェルに、レヴィは困ったような顔で笑う。
「僕は君が苦しむのは嫌だ。見たくない。……だけどね、レイ。寂しそうな君を見るのは、もっと嫌なんだよ」
優しい声でそう言いながら、レヴィはレイチェルの仮面を外す。そこにあったのは、突然ひとりぼっちになったかのように戸惑った顔だ。
初めて鳥籠で目を覚ました時も、こんな顔で心細そうにしていた事を思い出す。
「……わたくしが、寂し、そう?」
そんなつもりは無かったと言いたげなレイチェルだったが、レヴィには分かる。
窓の外を見つめる時、お茶の時間の一瞬、ふとした瞬間に物憂げなため息を吐く事を、本人は無意識だったとしても、レヴィは気がついていたから。
「うん。とてもね。そんな君を見守るのもそれはそれで楽しかったけれど、やっぱり僕は、笑っている君が好きだな」
でも、とレイチェルは唇を噛み締めてしまう。いくら寂しそうにしていたとしても、これはもう決めた事なのだ。
彼から逃げて、この想いに蓋をする。そうやって、怖さから逃げる道を。
そんなレイチェルの心中を意図も簡単に見透かして、まるで追い討ちをかけるように、レヴィは言葉を続ける。
「君が怖いものは何?彼の気持ちを知ることでしょ。彼が君を、何とも思っていないと知ることでしょ」
「……ええ、そうね」
「それはどうして?」
「……彼を、クライヴ様を、愛しているからよ。今だって喉が渇いてしょうがないの!彼の血が欲しくてたまらない!だけど!……だけど、そんなこと、出来ないわ……。分かってるでしょ?」
「彼が君を愛していないから?血を通して、それを知りたくない、と?」
「分かってるなら……!」
「それは違う」
思わず叫ぶように言ったレイチェルの声を、背後から静かな声が遮る。その声を聞き間違えるなど、ありはしない。
はたして、ゆっくりと振り返ったその視線の先に、黒一色で統一された衣装のクライヴがそこにいた。