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侯爵様はヴァンパイアを妻にお望みのようです  作者: リラ
真愛は泡雪のように、静かに
110/120

目を見て

やがて舞踏会が始まる、約束通りレヴィと踊った後、レイチェルの元へは多くの誘いが舞い込んでくる。


レヴィは早々にどこかへと消え、ひとり残されたレイチェルを、男性が放って置くはずもない。


「踊っていただけますか?」

「ええ、喜んで」


そう言って微笑みと共に応えたのは、もう何曲目だろうか。今宵の仮面舞踏会には堅苦しい決まり事はなく、誰もが自由にこの夜を楽しんでいる。


もちろん、レイチェルもそのひとり。この時踊っていたのは、黒髪のまだ若そうな男だった。


この人にしよう、とレイチェルは心中で小さく笑う。


「……少し疲れたわ。良ければ、一緒に散歩でもいかが?」


曲が終わり、レイチェルが男の腕に手を添えながら言うと、男は快く受け入れる。そして二人は連れだって、そのまま庭に出ていく。


公爵邸の庭には仄かな明かりが灯り、花壇の小道を淡く照らし出していて、どこか夢のようだ。屋敷から漏れ聞こえてくる音楽と二人の足音以外の音がなく、静かなものである。


しばらく黙って歩いていたが、男の方が先に口を開いた。緊張気味で、声は少し震えている。可愛い事ね、とレイチェルは密かに笑った。


「あなたのような方にお会いしたのは初めてです。いや、もしかしたら、どこかで会っているのでしょうか?」


探るような男の問いかけに対し口元に笑みを浮かべて、レイチェルは立ち止まる。ちょうど、屋敷からは木が邪魔で見えない位置に。


「あら。今夜はそういう事は無しでしょう?」

「そうでしたね。失礼しました」

「いいのよ。でも、今夜はそういう事よね」

「え?」

「何をしても、咎められないのよ」


妖艶に笑い、レイチェルは男に体を寄せる。胸に手を当ててしなだれかかると、相手の鼓動が速くなったのを感じた。


内心でほくそ笑みながら上目遣いで男を見つめ、言葉を続ける。その瞳は榛色から真紅に染まっているが、男は気がつかない。


「ねえ?わたくしは今この瞬間は、誰でも無いのよ。例え恋人がいても、人妻でも。あなたはどうかしら。そんな勇気は無い?」

「……私もたぶん、誰でも無いのでしょうね。今夜だけは」

「そう。今夜だけはね」


レイチェルは微笑んで、男の首に腕を回す。


「わたくしの目を見て」


男は言われた通りにレイチェルの瞳を見つめ、次の瞬間、糸の切れた人形のように崩れ落ちる。


その体を抱き止め、ゆっくりと地面におろしたレイチェルは膝をつき、男が完全に意識を失ったのを確認してから、その袖を捲りあげた。


こんな事をするのは久しぶりだわ、と思いつつ、誰も来ないうちに済ませなくては、と男の腕を持ち上げ、牙をたてる。


温かな血が流れ込み、レイチェルはその血を喉へと……。


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