困った子たち
その後、クライヴを森の出口まで見送ると、アインツ公爵から連絡が来たらすぐに知らせると伝え、レヴィはその背を見送った。
夕焼けに染まる空の下、ゆっくりと鳥籠への道を辿りながら、クライヴの後ろ姿を思いだしてレヴィは小さく笑う。
中々見所のある、誠実な青年だ。さすがはレイチェルが好きになっただけはある、と思うと嬉しくなった。
ヴァンパイアになって、少しだけ周りとの思考が変わったレイチェルのすべてを受け止めてくれる人間は、そうそういるものではない。もちろん、母である伯爵夫人や、ヴァンパイアを側におくシャーロットを除いて。
最初の選択がただの契約でも、その後どうなるかは本人たち次第。レイチェルがクライヴの優しさと温もりに触れ、クライヴがレイチェルの寂しさと孤独を知り、二人は惹かれあったのだ。それがあたかも、定めか何かのように。
そんな事を考えてから、それにしても、とレヴィは独りごちる。
「印をつける意味は、最初に教えたはずなんだけどな。でもまあ、無意識だったのだろうね。しょうがないことに。侯爵も侯爵でしょうがないとは思うけれど。僕たちと違って、人間には言葉にしなきゃ伝わらない事の方が多いのに。困った子たちだねぇ、まったく」
やれやれ、とため息を吐くレヴィ。だが、愉しそうな様子なのも否めない。その楽しそうな様子に誘われてか、一羽の鳥がレヴィの肩に舞い降りる。この森ではよく見かける、美しい緑の羽を持つ鳥だ。
「知った時、あの子はどんな顔をすると思う?」
レヴィが笑みを含んだ声で問いかけても、もちろんただの鳥が答える筈もなく、レヴィの髪を嘴で何度か啄んだ後、軽やかに大空へ飛び立っていった。
それを苦笑しながら見送って、レヴィはレイチェルの怒った顔を想像してみる。きっと、知っていた癖に隠して楽しむなんて悪趣味ね、と嫌味の一つでも零すのだろう。レヴィにとってはどんなレイチェルも愛しいに違いないけれど、やはり笑っている方がいい。
「ねえ、レイ。僕の可愛い小鳥。彼は諦めていないよ」
ここにはいない存在に向かって、静かに言葉を紡ぐ。
「僕は嬉しいんだ。人間にもまだ、ヴァンパイアを愛してくれる者がいるんだよ。彼はきっとどんな結末でも、受け入れる覚悟は出来ているんだと思う。後は君次第だ。後悔しない選択をしてほしいな。……僕と違ってね」
最後の言葉と共に自分に苦笑を向け、空を見上げる。一番星が、さながら希望の光のように、優しく瞬いていた。