希望はある
未だに、人間を餌でしかないと思っているヴァンパイアは存在する。けれどもそんな彼らでさえ、自分の印を付ける事はしない。
言ってしまえば、人間が大勢いるおかげで餌に困ることはないし、そもそも自分の印を付けるのは、そういう意味ではないのだから。
「餌にいちいち印をつけていたら、きりがないし、第一面倒だからね。必要もない。その印は、自分だけのものだという証。教会はそれを、自分の餌だという意味だと解釈したんだ」
「同じでは無いのか?」
「違うよ。まったく違う」
首を振りながら、レヴィは言う。
ヴァンパイアにとって印をつけるという事は、とても重要な意味がある。ただの血を貰うだけの存在につけるなど、考えられない。
あの、ヴァンパイアに血を飲まれる事を趣味とする、アップルトン伯爵の未亡人、シャーロットも、印は付けないように契約を結んでいる。
ただし、彼女に可愛がられる彼らなら、印を付けても後悔はしないだろうが。
「その印があればこれから先、あなたはずっと、レイチェル以外のヴァンパイアからは手出しされないんだ」
「……つまり?」
「希望はあるという事だよ、アッシュベリー侯爵。印は一人に一つだからね。あなたが死ぬまで消えない。今のままでは会わせられないと言ったけど、前言を撤回する。あなたをレイチェルに会わせよう」
にこやかに笑ってレヴィが言うと、クライヴは目を見開く。言われた事が信じられず、つい確認の言葉を口にした。
「本当か?」
「うん。だけど今すぐにじゃない。ところで、その印はいつ見つけたの?」
「ああ、レイチェルが出ていって数日経った頃だ」
「そっか。じゃあきっとあの子は知らないね。……面白いから黙っていよう」
「え?」
「大丈夫。僕に考えがある。あの子は素直じゃないからね。僕が言ったって信じようとしないだろうし、意地でもあなたに会おうとしないだろう」
その様子がクライヴにも想像出来て、少し笑う。そんなクライヴに柔らかい笑みを向け、レヴィは言葉を続けた。
「だから、ちょっとした仕掛けが必要だね。アインツ公爵に連絡してみよう。楽しい事が好きな人だから、時期外れのパーティでも開いてくれるかもしれない」
「アインツ公爵といえば、俺の叔父にあたる人だが……。凄いな。王弟殿下には、俺でもそんなに気軽に連絡など出来ない」
「偉い人間と仲良くしておいて損は無いよね」
そう言って、爽やかな笑みを浮かべるレヴィを、決して敵に回さないようにしようと、この時クライヴは誓ったのである。