表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
侯爵様はヴァンパイアを妻にお望みのようです  作者: リラ
北辰は宝玉のように、燦然に
104/120

薔薇と小鳥

「あなたは必ず、あの子を置いて行くから」


目を伏せ、レヴィは告げた。人間に恋をしたヴァンパイア、もしくはその逆の場合。彼らは皆、必ず同じ壁にぶつかる。


サミュリアのように。そして、レヴィのように。今この瞬間に最愛の者と別れても、その後数百年の生が続く。レイチェルにはまだ、その覚悟は無いのだろう。


それも悪い事では無いと、レヴィは思う。何度もそうした別れを繰り返したレヴィも、それに慣れる事は無かったけれど。出会って恋をしたという事実は、心の奥底に大切にしまわれている。


レイチェルが今の状況を選んだのは、自分を守る為だ。自分がクライヴに恋をするなんて思わなかったレイチェルの、涙ながらの選択。


いつか、時が癒す事を願って。


「今ならまだ間に合う。きっと思い出に出来る。あの子はそう考えたんだよ。悲しい事だけどね」


それは、遠回しにレイチェルの思いを伝えている。置いて行かれてしまうと、それが嫌で去ったのだと。


クライヴはしばらく黙って、レヴィの言葉の意味を考える。レヴィが静かに見守る中、やがてクライヴは、考え込むような姿勢で口を開いた。


「……彼女はすべて、忘れてしまいたいのだろうか?」

「口ではそう言っているよ。あなたを殺してしまう前にね」

「あの時も一瞬、殺されるかと思ったのだが」


そう言ってクライヴは、首筋を擦るような仕草をする。その時襟元から覗いたものに、レヴィが目を見開いた。


クライヴの首筋に刺青のように刻まれているのは、丸い薔薇のモチーフと、その真ん中に小鳥が飛んでいる紋様である。


「それ、その印……!」


信じられない、とでも言いたげなレヴィに、クライヴは不思議そうに首を傾げる。ヴァンパイアにとっては見慣れたもののはずだ、と。


クライヴはジャックに言われて初めて気がついたけれど、この印の意味は、教会に行けばすぐに分かった。


「そんなに驚く事なのか?これは餌につける印なのだろう?」


しばらく放心していたレヴィだったが、やがて気の抜けたように笑って、椅子に座り込む。いつものレヴィらしくないが、そんな事知るよしもないクライヴは、ただただ不思議そうだった。


まったくあの子はしょうがない、とレヴィは言いたくなりながら、クライヴの質問に答える。


「よく知ってるね。でも、それは教会が勝手に思っているだけのものだよ。僕らは、ただの餌にわざわざそんな印はつけない」

「そうなのか?」


問い返してくるクライヴに、レヴィは苦笑しながら頷く。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ