表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
侯爵様はヴァンパイアを妻にお望みのようです  作者: リラ
北辰は宝玉のように、燦然に
103/120

あの子の平穏を守る

「どうか、レイチェルに会わせてほしい」


今日はその為に来たのだ、とクライヴは真っ直ぐに言う。レヴィとしても会わせたかったが、それは出来ない相談だった。


レヴィはいつだって、レイチェルの幸せを願っている。だから、レイチェルがクライヴの側にいたくないと願うのなら、それが偽りだろうとなかろうと、叶えるのを優先させる。


本心からではない悲しい選択も、何か大きな変化がない限りは、ただ静かに見守っていたい。


「駄目だよ。それには答えられない。それが、今のあの子の望みだから。僕はね、あの子を眷属にしてから、あの子の平穏を守ると決めたんだ。あの子が決めたことは、あまり否定したくない。……森の出口まで送ろう」

「会うまで帰らないと言ったら?」


立ち上がったレヴィはゆっくり首を振って、クライヴを見下ろした。深い泉のような瞳が、暗く翳る。まるで、月光が雲に遮られたかのように。


「あまり強情を張ると、さすがに僕も怒りたくなるよ。あなたのそれはあの子を苦しめると、どうして分からないの?」

「……苦しめる?」

「あなたにとってあの子は、知識欲を満たす為だけの存在なんでしょ?あの子を傷つける存在は、すべて滅びてしまえばいいと思うんだけど、あなたはどう?あの子の存在は、あなたにとって損得しかないんじゃないの?」


碧眼が煌めき、怒っているのだと分かる。レヴィもクライヴの想いは、痛いほど理解していた。だがあえて、きつい言葉を口にしたのだ。


「それは違う。俺は、彼女を愛している。だからここに来たんだ。レイチェルに会って、直接伝えたいんだ。でなければ、いつまでも後悔してしまう」


クライヴはレヴィの静かな怒りに少し怯んでしまったものの、力強い声でそう言った。


けれど、一層レヴィの瞳が翳る。そこに浮かぶのは先ほどの怒りではなく、愁いのようだった。


「例えそうだとしても、今のまま、あの子に会わせるわけにはいかない」

「何故だ」


絞り出すようなクライヴの低い声に、レヴィは寂しそうな笑みを浮かべる。


ヴァンパイアと人間には、どうしても埋められない溝がある。それがあるから、レイチェルは帰って来たのだ。


たった一人で。泣きそうな顔で笑って。


レイチェルが結婚して、幸せになってほしいとレヴィが願ったのは、レイチェルのそんな顔を見たかったからではない。


そもそも、レヴィはレイチェルと結婚するのは、同族だと思っていた訳だけれど。人間と結婚して、一番の心配事に、こんなに早くぶつかってしまったことは、いいのか悪いのか。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ