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侯爵様はヴァンパイアを妻にお望みのようです  作者: リラ
北辰は宝玉のように、燦然に
102/120

飽きたから

レヴィはクライヴを客間に招き入れると、すぐに紅茶とケーキを用意する。余談だが、レイチェルが持っていったのとは別の、林檎のケーキだ。


客間には大きな半円形の出窓があり、日の光が差し込んでいた。そのせいか、暖炉に火を入れていなくても温かい。


向かい合って席につくと、レヴィがケーキを口に運びながら、楽しげに口を開く。


「男性を招くのは初めてなので、何だか新鮮です。いつもお茶の時間には、可愛らしい小鳥が一緒でして」

「小鳥?」


先ほども小鳥と口にしていなかったか、とクライヴは思う。ヴァンパイアは小鳥と会話が出来るのか、などという考えが浮かぶが、そんな話は聞いた事がない。


その反応を面白がるように見つめるレヴィと目が合い、クライヴは思い至る。目の前のヴァンパイアにとって、レイチェルがどういう存在か。


「小鳥とは、レイチェルの事か。あなたは親鳥というわけだ。だから今日は、レイチェルがいないのだろうな。親として、会わせたくないから」


些か仏頂面で言ったクライヴにきょとんとしてから、レヴィは吹き出すように笑った。


何がそんなに可笑しいのだろう、とクライヴが思うほど、肩を震わせて笑っている。


「……ふふっ。ああ、ごめんね。あまりにも予想外の事を言うから」


しばらくして、素の口調でレヴィはそう言って目元の涙を拭う。久しぶりにこんなに笑ったよ、と付け加えながら。


「僕があの子に会わせたくないわけじゃないんだ。あの子が、あなたに会いたくないんだよ」

「レイが、そう言ったのか?」

「ううん。あの子の考えている事なんて、言わなくても分かる。あの子はね、自分の意思で、あなたの側を離れたんだ。もうあなたの側に居たくないって言って」

「何故?」

「……飽きたから、だってさ」


クライヴは、その言葉が本当だとは思えない。あの最後の祭りの日、レイチェルは笑っていた。少なくとも、血を飲みに訪れるまでは。


これまでのレイチェルと過ごした日々は、クライヴにとってかけがえの無いものになった。レイチェルもそうだと、信じているのだ。


その想いをクライヴが自覚したのは、王太子の晩餐会の日。自分は化け物だと言って、レイチェルが泣いたあの日。


だから、もっと早く言うべきだった、と何度も後悔している。それでも、今からでもそれを伝えたい。その強い思いが、クライヴの足をここへ運んだ。


わずかな希望を信じて。


「レイチェルは、本当に飽きたというのなら、はっきりとそう言うのではないか?」


クライヴがそう言うと、レヴィはにっこりと笑って何も言わない。きっとそれが答えだ。


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