多少の遊び心
「ところで、舞踏会には必ず教会の人間がいるはずだが。あの時のそなたの行動は、特に御咎めは無しなのか?」
レイチェルを咎めるというよりも、単純に疑問に思っているだけのその様子に、レイチェルは口元に手を当てて、ふふふ、と笑った。
クライヴは厳しそうに見えて、意外に寛容なのかもしれない、とレイチェルは思う。
「少しの味見くらいは目を瞑ってくれますのよ。与える血だけでは足りないことくらい、教会は百も承知ですから。殺してしまわないように加減をすればいいのですわ」
口角を上げて笑う姿は優雅だが、言っている事は物騒だ。だが、クライヴも特に気にした様子もなく、言葉を続ける。
「それは初耳だ。ということは、これまでもそうしてきたわけだな」
「多少の遊びもなくてはなりませんわ。ヴァンパイアの脅威を最も知っているのは、他ならぬ教会ですもの。厳しく抑圧されたヴァンパイアに、反乱でも起こされては困りますでしょう?」
「確かにその通りだ。何事も、ある程度の自由は必要だな」
「そのような事しなくても、ヴァンパイアたちには、人間と争うつもりはありませんのにね。極度に怯えられ、血を貰えなくなったら困りますもの」
「そういうものか」
「そういうものですわ。わたくしたちの持つ催眠術も、警戒心の強い方にはかかりにくいですし」
「つまり、この間のような者を選ぶ、と」
「そうですわね。結婚すれば、その手間が省けてが楽ですけれど」
「夫からもらえばいいからな」
「ええ。結婚以外でも、見目麗しいヴァンパイアを侍らせたいとか、血を吸われたいとか、そういう趣味の方の所へ行けば、不自由はしませんわ。とはいえ、わたくしのようなヴァンパイアにとって、血はそれほど必要でもありませんけど」
レイチェルの言葉に、クライヴが首を傾げる。その姿がどこか小動物のようで、レイチェルはまた小さく笑った。
「欲しくなったら貰う程度という事ですわ」
「今でもいいが?」
そう言って袖を捲り、腕を差し出そうとするクライヴに、レイチェルは呆れたため息を吐く。優秀だと噂の王の甥がそういう趣味なのか、と疑ってしまう。
まあ、生体を研究したいから結婚する、という時点で十分変わり者だが。まったく怖れず、躊躇いも見せないのは果たして良いのだろうか、とレイチェルは少しだけ心配になった。
「……遠慮しますわ」
「それは残念だ」
「本当に、変わった人ですわね」
「よく言われる」
直球なレイチェルの言葉に、クライヴは笑ってそう返したのだった。