02
テェレーヌは看守だ。
他の国ではどうか知らない。
この国では、囚人達を管理する看守は無力だった。
囚人達からみると、圧倒的な力を持っているように見えるが、看守たちは看守で生き延びるのに必死だった。
看守の大部分は、貧しい地域に住む孤児達。
彼等は飢え死にしそうなところを拾われて、雇われた者。
だが、低賃金・重労働で働かされるため、長くはもたない。
多くの者達が使いつぶされてしまう。
しかも、仕事ぶりが著しく低い者は、職を辞めさせられて再び露頭に迷う事になる。
だから、看守はみな必死だった。
そのためそのストレスを、囚人たちに向けて八つ当たりしてしまう人間は少なくない。
看守であるテェレーヌの同僚もそうだ。
「おらっ、いう事聞けねぇのか! おしおきが必要なようだな!」
荒々しい言葉使いで、囚人を攻め立て、せっかんを続けるのが日常だった。
テェレーヌには何が楽しいのか分からない。
自分と同じような弱者を虐げて、何を得るというのか。
今でこそ、看守という職と、少ない賃金を得て生活しているが、自分達だって、そう変わらないというのに。
生きていくために、盗みをしたり、殺しをしたものをいたはず。
だからテェレーヌは今日も、淡々と仕事をこなすのみだ。
切り捨てられないように、しっかりと、確実に。
毎日がつまらない日々。
そんな時間を積み重ねていたテェレーヌの前に、ある一人の男性が現れる。
その男性の名前は、アベル。
アベル・シドライド。
雰囲気から、一目で濡れ衣で牢屋に連れてこられたのだとわかった。
けれど、テェレーヌにはどうする事も出来ない。
同情し、過ごしやすいようにすることぐらいしかできなかった。
彼は最初は絶望しきっていた。
だが、テェレーヌが親切にすることで、アベルは希望を見出したようだ。アベルの罪は重い、この牢屋から出る事ができない身分だと言うのに。
余計な事をしてしまった、と罪悪感を抱えているテェレーヌにある仕事が舞い込んできた。
囚人達の間で、脱走計画がねられているという。
囚人を逃がしてしまうと、彼等を担当している看守達は全員くびになってしまう。
だから、本当ならば何が何でも阻止しなければならなかった。
テェレーヌは、苦渋の決断をして、アベルに協力するように依頼した。
刑期を短くするなどという、できもしない約束までして。
結果は上々だった。
脱走計画を企てた人間も、計画の全貌も全て判明した。
テェレーヌは教えてもらったその情報を、同僚と共有。
計画の綿密性と、関わる者達のほとんどが重罪人であるという点を考え、処分することになった。
テェレーヌはわずかな胸の痛みを無視して、囚人達を殺傷するための銃を手入れする。
処分実行はわずか数時間後。
その時にはきっとテェレーヌは赤い血だまりの上に立っている事だろう。
まさか、撃てないなどと言って、引き金を引けない事になるなんて事はないはずだ。
囚人達と顔を合わせたくないなどという、そんな自分勝手な思いが許されるわけがない。
だってテェレーヌ達は、生きなければならないのだから。
辛い感情を、胸の奥に押し込めた。