女神ステラの世界が救われた話をしよう世界-国王登場-
城内に入ると城下の喧騒が嘘のように静寂に包まれていた。人がいないわけではないが、誰もが静かに移動して無駄口など話すことなく黙々と自分の仕事を行っているようだった。
私が近くを通ると仕事をしている人達は一度足を止めて私に深く頭を下げてきた。私は返事としてその人達に対して笑みを浮かべながら城内をテラーの案内に従って歩き続けた。
「先に国王様と会っていただこうと思いますがよろしいでしょうか?」
「構わないわ」
城へ来て最初に国王と会うのは礼儀の内だろう。
テラーに城内を歩きながら案内された場所は玉座がある部屋ではなく国王の執務室だった。私が来ていることは城内に既に周知されているようで私が執務室の扉の前まで来ると扉の左右で警備していた兵士達が扉をゆっくりと開けた。
「お待ちしておりました、女神ステラ」
執務室の中央でミグリット国国王アフリードが右手を胸に当てて深く頭を下げながら私を待ち構えていた。五十を超える年齢ではあるが全身の活力は生き生きとしている。常に全盛期と以前会った時に自慢していたけれど、それは相変わらずのようだ。
アフリードが顔を上げるとキリっとした威厳のある顔立ちに整えられた口ひげが見えた。以前はひげを蓄えていなかったはずだけれど、何か心境の変化があったのだろうか。
私は部屋に入るとアフリードの傍まで近づいて軽く会釈をする。身長はアフリードの方が頭一つ分ほど高いため私は彼を見上げた視線のまま話をする。
「お久しぶりね、アフリード国王。元気そうでなにより」
「女神ステラ、あなたもだ。あなたが各地を浄化してくれているおかげで復興が順調に進んでいる。国民、いや、世界中の民を代表してお礼を」
「お礼はいらないわ。浄化は私にしかできない贖罪みたいなものなんだから。むしろこれほど破壊された世界で再び生きていこうとしている人々に感謝しかないわ」
「女神からの感謝とは嬉しい限りです。今のお言葉は恐れながら私の方で手紙として各国に送らせていただきます」
「大袈裟よ。それに手紙は不要。私が直接赴いて伝えるわ」
「……確かにそれがよろしいでしょう」
「堅苦しいのはこれくらいにしてっと……お祝いさせてもらうわ、アフリード。トワネス姫と勇者殿の結婚おめでとう」
「ぐぅ……女神からの言葉ありがたく」
アフリードが急に奥歯を噛み締めて苦いモノを食べたような表情になる。
「アフリード、あなたまだ二人の結婚を認めてないとか言わないわよね」
「そ、そんなことは……ありません。娘が、トワネスが望んでいることですし、勇者殿なら幸せにしてくれると私も思ってはいます……いますがっ」
「親バカはアフリードの欠点だけど魅力よね。トワネス姫に嫌われない程度にしておきなさい」
「…………」
私の言葉に何かを思い出したのかアフリードの目から涙が流れた。
「ど、どうしたのよ」
「実は……昨日、トワネスにお父様とはもう結婚式まで顔を合わせないと言われてしまい、嫌われてしまい……」
「ああ、もう手遅れだったのね」
思い出すだけで涙するとはよほどショックだったのだろう。それでも政務は投げ出さずに執り行っているのだから、私情との切り分けは出来ているようだ。




