女神ステラの世界が救われた話をしよう-育ての親-
床に転がるスティルグを眺めながらこれからどうしようかと考える。このまま放置しておいてもいずれ騎士団の団員が探しに来るだろうし問題はない気がするが、女神としては仕事をサボってきているスティルグを騎士団に引き渡してきちんと仕事をさせた方がいい気もする。
私が悩んでいるとスティルグがじっと私を見上げているのに気づいた。口から先に生まれてきたのかと信じたくなるほど常に話をしている男が黙っていると不安になる。
「なに? 何か言いたいことある?」
「いや、改めて眺めてみると女神様もうちの姫様やエメオールに負けるとはいえ、それなりに立派なモノを持ってるなっと」
スティルグの視線が私の胸に向けられているのに気付く。
私が恥ずかしがる態度をスティルグは期待してそうなので私はワザとらしく溜息を付いた。
「あなたね、少しは今の立場を考えなさい」
「ミグリット国の副騎士団長ですよ、俺様は」
「そういう役職の話じゃなくてね……って分かっててはぐらかしてるでしょ」
「当然」
無言で光の鎖の拘束を強める。
「痛いっ! 痛いってっ!! 骨がぁ、骨が折れるってっ!!」
「骨の二、三本くらい折れても平気でしょ。後で誰かに回復魔法かけてもらいなさい」
「そういう問題じゃっ! くっそ、この女神! いつからこんな攻め攻めな性格にっ! はっ、まさか偽物!? だから一年前よりも胸が大きくぅぅぅぅ!! ぃってぇぇ!!」
さらに拘束を強めて本当に骨が折れるのではないかというくらいに締め上げる。
もう一度これからどうしようかと冷静に考える。スティルグが騒ぐので人が集まり始めている。先ほどからスティルグが私の事を女神と呼んでいるのでいつ正体がバレるか分からない。スティルグにしてもまだフードで顔を隠せているからいいが、フードが外れればそこで大騒ぎだろう。
落ち着いて王都を見て回ろうとしているのに騒ぎになるのは避けたい。
「その声はスティルグ?」
年配の女性が一人近づいてきた。派手な服を着ているわけではないが気品と優しさを感じさせる女性に私は見覚えがあった。スティルグには幼少期に凶暴な魔物が住みついているミグリット王国で危険地区と指定されている山林に捨てられた過去がある。数年間、奇跡的に危険な山林で生き抜いたスティルグは危険地区の調査に来ていたミグリット国の騎士団長に拾われて養子として育てられた。山林で育ったこともあり、手が付けられない野生児だったスティルグに育て親である騎士団長も他の騎士団員も苦労していたが、唯一当時野生児だったスティルグを治められる人物がいた。
それが今、近づいてきている女性、ミグリット国騎士団長の妻であるイノセルさんだ。
「イノセルさん」
「あら、私の名前を……ということは以前会ったことがあるのかしら。ごめんなさい、お嬢さん。ちょっと思い出せないわ。人の顔は覚えている方なんだけれど」
「い、いえ、以前とは姿が変わっているので」
「姿が?」
「あー、えっと……」
「事情があるのね。いいわ、言わなくて」
事情を説明しにくいことを察してくれたイノセルさんは地面に拘束されて転がっているスティルグの顔を見ようと腰をかがめようとする。
「おい、ばあさん。腰が悪いんだから無理するな。立ったままでいいだろ」
「立ったままだとスティルグの顔がちゃんと見えないじゃないの。最近忙しくて夫もあなたも家に帰ってこないんだもの。久しぶりに顔を見せておくれ」
「……っ」
もう拘束の必要な無いと光の鎖を消す。鎖が消えた瞬間、待っていたかのようにスティルグは立ち上がり、イノセルさんの体を掴んでまっすぐ立たせた。
先ほどまではイノセルさんがスティルグを見下ろす恰好だったが今は逆に見上げる格好になっていた。
「ほら、こうやって立てばそのまま見えるだろ」
「ええ、そうね。ほら、転んでいたから顔に砂が付いてるわよ」
スティルグの顔の汚れを取ろうとイノセルさんが手を伸ばす。スティルグは反射的に腕を上げてイノセルさんの手を払おうとしたが寸前で動きを止めるとイノセルさんの手を受け入れた。
「まったくこんなに大きくなっても手間がかかる子ね」
「ばあさんの手間はかけてねぇよ」
「ふふ、そうね。今は立派な副騎士団長だものね。私があなたに手間をかけたいだけね」
「……」
いつものスティルグなら反論の一つでもしそうな場面だったけれど、スティルグはイノセルさんに自分の顔を拭かれるのをじっと黙ってされるがままにしていた。
相変わらずスティルグはイノセルさんには弱いようだ。
スティルグ君、母親には弱い。というか母性に弱い。




