女神ステラの世界が救われた話をしよう
前日談といいつも最終戦、最後のシーンです。
私は女神としての力をほとんど吸い上げられて気を失いかけていた。地面に倒れてもう指をわずかに動かすことすら難しい。それでもこの目だけは閉じるわけにはいかないと体の、心の奥から力を振り絞って気だけは失わないように耐える。
「うおおおおぉぉぉっ!!!」
「消滅するがいい!!」
勇者殿が振り下ろした神剣から伸びる光の柱が魔王が振り下ろす魔剣から伸びる闇の柱と衝突する。二つの巨大な力の衝突は周囲の全てを吹き飛ばしていく。草木が吹き飛び、地面が捲れ上がっていく。私が草木と同様に飛ばされないのは勇者殿の仲間が必死に張ってくれている防御魔法のおかげだ。防御魔法を張ってくれている魔法使いのエルフの女性以外の勇者殿の仲間は私と同じように地面に倒れている。だけど誰もがこの戦いの結末を見届けようと、いや、勇者殿が勝つと信じて視線だけは一点に集中させていた。
勇者殿と魔王の力は拮抗していた。しかし、魔王は自身の力と勇者の力が拮抗していることを信じられないという表情を浮かべて歯を食いしばる。
魔王の態度は当然だ。魔王が今振るっている力は私、女神ステラの力だ。正確にいえば八つに分けられた力の内、七つを魔王が使っている。ほぼ全能といえる力の前に誰もが平等に押しつぶされ消え去ってしまうのは当然のことだった。
その力と勇者殿は拮抗していた。
勇者殿にも女神の力が宿っている。だけど、それは一つだけだ。七と一の対決。子供でもどちらの数が大きいのか分かる対決だった。普通なら拮抗できるはずがない。なのにそれが出来ていた。
戸惑いを見せ始める魔王に対して私はつい笑みがこぼれてしまった。拮抗出来ている理由を私と勇者殿の仲間は全員知っていたからだ。
勇者殿の一撃には私達全員の力と想いが宿っている。私達とはこの場にいる勇者殿を除いた五人だけじゃない。今、この世界に生き、平和と明日を望む全ての生き物達の力と想いだ。
魔王が私から吸い上げ奪っていた力の中で不要と判断して取り残し、勇者殿が今、身に宿している力。それにあえて名を付けるなら『想いが力になる能力』。
一人の人でも誰かの為ならば自身の本来の能力以上の力を出せる時がある。それは想いがあるからだ。だけれども一人の想いではどうしても限界がある。本来の能力以上の力でも及ばない力は存在する。
だけれどもだ。一人の想いで足りないのであれば二人の想いを、それでもならば三人の想いを……っと紡ぎ積み上げて世界中の想いを一つにすることができるのならばその力は神の力にも対応しえる。
魔王も拮抗する力の正体に気付き、驚いていた表情をやめて不敵に笑みを浮かべた。
「想いだとそんなものと投げ捨てるべきだろうが……事実は認めよう。だが、対抗するのがやっとだろう」
「ああ、そうなんだろう。この世界のすべての想いを集めても、魔王が奪った女神の力とやっと互角」
「問題はいつまで対抗できるかだな、女神が呼んだ勇者。ただの人間の体でいつまでこの力に耐えられる? 補助魔法にも限界があるだろうに」
勇者殿と魔王が鍔迫り合いをしながら言葉を交わしていた。魔王の言葉を証明するように勇者殿の体から大量の血が溢れ出していた。これまでも戦いで負った深い傷は回復魔法で治しているのであの血はたったいま負った傷の血だ。勇者殿の体が世界中の想いの力に耐えきれなくなっている。
「見事だったぞ、勇者よ。さすがは女神が呼び寄せただけはある。だが、ここまでだ」
「ここまでなのはお前だ、魔王」
「なに?」
「俺は女神ステラにこの世界に連れてこられた本来なら関係ない人間だ。最初はこんな世界の事なんてどうでも良かった。関係ない世界だからな。だが、いろいろ知った、知り合った。この世界に生きる人々のことを」
勇者殿が声を発するたびに力の拮抗が崩れて魔王が僅かに押され始めた。
「俺が今、お前に向けている力は世界中の皆がお前から世界を守りたいって、明日を生きたいっていう想いの力だ。そしてここにもう一つ想いがある。この世界には俺が誰よりも守りたい人がいる。その人がいる世界を俺は守りたい。世界中の想いと本当は関係なかったでも、関係を持つこと選んだ俺の想いが加われば、俺達の想いは女神だってねじ伏せられる!!」
想いの力を見た。
私はそれを知っているはずだったけれど、実は知らなかったんだと実感した瞬間だった。
勇者殿の神剣が魔剣を打ち砕き、魔王の体を切り裂く。神剣に体を裂かれて世界中と勇者殿の想いが込められた光にその身を消滅させられていった。
「そんな……私は、女神を、世界を……」
最後、私に救いの手を求めるかのように腕を伸ばして魔王はこの世界から姿を永遠に消した。




