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一度吐き出すと結構すっきりする

 斎藤君から香織の件で連絡があったのは数日後だった。

 無事に両親と面談出来た斎藤君達は今度は香織を交えて面談することが決まったとのことだった。


「順調に進んでいるみたいでなによりね。もうあまりステラは関われそうにないのはちょっと寂しい気もするけれど……」


 香織とコンビニで出会ってからの一連の事柄は裏表共にこれで収まっていくだろう。

 休暇でこの世界で過ごしているために予想外な事柄に関わることは正直いい気分はしないが、私がやれる範囲で実施したことで誰かが救われるのは充分報われる。

 勇者殿当人には無関係だが、私なりに彼への恩返しの意味もある。

 斎藤君から連絡があった当日の夜に香織からも連絡がきた。


「前にステラが言った通りで今度、親と会うみたい」

「愚痴を言う準備はできているかしら?」

「この前から言いたいことをたまに考えるから結構ある。でも、実際に言えるかは分からない」

「そこは出たこと勝負だけど大丈夫よ。香織は言いたいことはちゃんと言える子だから」

「ステラがそう言ってくれるなら言えるかも」


 香織とのちょっとの相談事と雑談を終えるとその日は深夜まで海外ドラマを見ることなく日付が変わる前に就寝した。

 翌日も香織からの相談事の連絡が来た。内容は前日とだいたい同じようなモノで一度納得してもまだまだ不安が強いようだった。そのまた翌日から似たような相談事が数日間続いた。でも、香織からは直接会って相談されることはなかった。私の方から会って話そうかとは誘わなかったし、香織も少し意図的に会うことだけは避けていたようで話題からは遠ざけていた。

 香織なりに頼りすぎないようにしていたのかもしれない。

 さらに日にちが経って斎藤君から聞いていた香織と両親が話し合う日になった。朝から気になってしまい、何もすることなく日中をソファに寝そべって過ごしていた。

 瞑想に近い心理状態で過ごしていると今日一度も鳴らなかったスマホが着信を告げた。着信元を確認すると斎藤君からだった。


「ステラよ」

「ステラさん、斎藤です。今、お時間よろしいですか?」

「ええ、大丈夫。正直一日斎藤君からの連絡を待っていたのよ」

「それは今日の行われた宮田さんの面談についての話を待っていたということでいいですね」

「話し合いは上手くいったのかしら」

「上手くいったとは正直言いにくいですね」

「……」


 上手く行っていないと取れる言葉だった斎藤君の口調はどこか苦笑交じりだった。


「何があったか話せる範囲で教えてくれる?」

「はい、そのつもりです。ステラさんは聞いてもらった方がいいでしょう」


 電話越しに斎藤君が小さく息を吸う音が聞こえてきた。


「面談の最初は緊張した空気で始まりました。私とシェルター職員の安藤さんはお互いの状況を説明する声以外では基本的な受け答えをする声しか宮田さんの自身、両親双方から聞こえてきませんでした。お互い心の壁があるような状況は予想していましたから私達を仲介して会話をするような形でそれからも面談を続けていきました」


 想像するだけで場の空気が重たいのが分かった。


「空気が変わったのは私がステラさんの話題を出してからですね」

「ステラの?」

「ええ、宮田さんがシェルターへ行くきっかけ、後は現状一番心を許している人として話をさせていただきました」

「それは香織のお母さんがまた怒ったんじゃないの?」

「いえ、宮田さんのお母さんの方は黙っていらしたのですが、お父さんの方が小さい声ではありますが、ステラさんの悪口を言いまして……」

「ご両親から嫌われてるのね、ステラ。まあ、娘さんをたぶらかしたとか思われてるのかもしれないから当然だけど」

「そんなことはないと私達は知っているので否定しようとしたのですが、私達の前に宮田さんが大声で否定しました。突然の大声にご両親が大変驚いていました。こんな大きな声を聞くのは初めてという感じでしたね。それからは何かが外れたのか宮田さんがご両親に対していろいろと喧嘩腰ではありましたが言葉を発し始めました」

「喧嘩腰ということは愚痴でも言い出したのね」

「はい、こんなにも両親への愚痴を言えるものだと少し感心してしまったほどです」


 どんな愚痴を言ったのか気にはなるけれど本題ではないだろうから突っ込んで聞かないでおこう。


「宮田さんの自分達を非難する言葉にお父さんの方が耐えかねたのか、宮田さんが現状のようになったのはお母さんのせいだと非難を初めました」

「だいぶヒートアップしてきたわね」

「今でこそ落ち着いて話せていますがその時私達はどうやってこの場を収めようか必死でしたよ」

「ご苦労様」


 悪いと思いつつも見たことがあるドラマの一場面のようで少し笑みがこぼれてしまう。


「お父さんに非難されたお母さんの方も我慢できなかったのでしょうね。立ち上がって宮田さんとお父さんを非難し始めました。もう会議室内は怒号で溢れていました。私達は引き続き場を収めようとしたのですが、気が付くと非難がお父さんの方へ集中していました。宮田さんとお母さんがお父さんへの非難で意見を一致して協力し始めたのです。そこからお父さんは防戦一方で私達の方へ助けを求める視線を向けてきた頃には涙目でした」

「私の聞いた限りだと香織の父親はあまり家庭に協力的じゃなかったみたいだし、今までのツケが来た感じね」

「正直、私もそう思います。いえ、弁護士としては良くない感想ですが」

「素直な感想は必要だと思うわ」

「そう言っていただけるとありがたいです。ともかく助けを求められたこともあり、一度場を解散しました。具体的には三人には一度一人一人になってもらって落ち着く時間を作りました。冷静に話し合うことを全員と確認しあった後に再び面談を再開したのですが、そこからは再び互いに言葉をあまり交わさなくなってしまいました。今日はこれ以上の面談は効果がないと切り上げようとした最後で宮田さんが両親へ向けて話してくれました。『私の自由に生活させてくれるなら家に戻ってもいい』と」

「それで両親はなんて?」

「これはお母さんが返事をしたのですが、『人に迷惑をかけるのでなければいい』と。お父さんは無言でしたね。反対の声は上げていなかったので同意ということだとは思います」

「……家族仲良くとはいかないまでも、言いたいことを言い合って互いに少し歩み寄った感じかしら」

「良い方に解釈すればそうですね」

「悪く解釈すると?」

「お互いに家族という関係を断ち切るとまでは言いませんが、薄くしたいという感じを私はその場で受けました」

「斎藤君がそう感じたのならそうかもね。でも根本的な所は家族の中の問題。外から助力できる部分と出来ない部分がどうしてもあるわ。ステラ達は香織が助けを求めていた時にまた手を差し出せるようにしておくしかないのよ」

「……そうですね」

「斎藤君はこれから弁護士として同じような、ううん、これ以上に大変な案件に関わることもあるんだろうから頑張っていかないとね」

「はい、そのために、困っている人を助けるためにこの仕事に就いたので頑張りますよ」

「頑張る斎藤君が何か困っていたら連絡を頂戴。ステラが出来ることならしてあげるわ」

「そのようなことが無いようにしたいですが……その時はお願いします」


 電話の先で斎藤君が軽く頭を下げたのが分かった。斎藤君は疲れが出てきたのか深いため息をつくと一言二言挨拶をして電話を終えた。

 私はスマホをテーブルに置いてソファに深く腰を掛け直す。

 香織は今何を考えいるのだろうと思い、置いたばかりのスマホに視線を向ける。スマホに手を伸ばしかけたが途中で止めて膝に手を置く。私から連絡するのはよそう。香織の中でいろいろと整理がついたら香織の方から連絡が来るはずだ。

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