精神版の筋肉痛
昼過ぎの程よい日差しが差すカフェテラスで私は大きく欠伸をしてしまう。
「おっきな欠伸。眠いの」
私の向かい側に座っていた香織が少し不服そうにしていた。
今日は以前からの約束通り香織と買い物に来ていた。目的だったカーテンを早々に買ってしまい、その後、カフェでお茶を呑んでいる最中だったのだけど、私が欠伸をしてしまったせいで自分との買い物がつまらなかったのではと香織が感じてしまったようだ。
「ごめん、そうじゃないの。久しぶりに体を本当に動かしたから疲れがね」
「筋肉痛?」
「ううん、そういうのでもなくて精神的な疲れかな」
言ってしまえばアルゴロナシスとの戦闘の後遺症だ。肉体的にはまったくの無傷だったけれど、久しぶりに使う女神としての全能の力は精神をひどく疲弊させた。
以前はあの状態が普通だったために精神的な疲れなんて感じたことがなかった。香織が言う筋肉痛というのもまったく的外れではないかもしれない。筋肉痛は運動していない人が久しぶりに運動すると起こるというし、今の私の状態は精神番の筋肉痛なのかもしれない。
「忙しいことは終わったんだよね」
「ええ、もう完全にね。だからこれからのステラはまた休暇モードよ。ゆっくりさせてもらうつもり」
香織の問題が残ってはいるけれど、これ以上私が積極的に動くことはないと感じている。私がすることいえば今みたいに香織とたまに遊ぶくらいだろう。
「もしかして私のことで悩ませてる?」
「違うわ。悩んでいないわけじゃないけれど、今の私の状態とは関係ないわ」
「でもさ、シェルターの人もそうだけど……苦労させてるみたいだし」
「それが仕事よ。香織みたいな人を助けたいってその人が選んだね。必要以上に気にすることはないわ」
「別に私は家に戻らなくてもいいんだけど」
「……ちょっと小言ぽいこと言いそうになったけどやめるわ」
「言いなよ。寝る場所はどうするんだ、食事は? 学校もあるだろうって感じでしょ」
「まあ、そんなところね」
「シェルターへ行く前の生活に戻るだけだもの……。あ、ステラの部屋に」
「前も言ったけれど、駄目よ。ステラを犯罪者にする気?」
「それ、ちょっと調べたけれど、親が同意すればなんとかいけるんじゃない? どうせあいつら私が家にいない方がいいだろうしさ。弁護士さんに言って同意してもらえれば」
「駄目よ」
「なんでよ」
「ちゃんと香織自身が両親と話し合って納得しあった結果ならステラも妥協するわ。でも、親から逃げて面倒なことは全部他人任せにするなら駄目よ」
「……今更会って話すことなんてないよ」
諦めたような香織の表情に私は先日会ってきた香織の母親である紀乃さんを思い出す。親子なので当然だが、よく似た表情を浮かべる。
「会ってみると意外にあるものよ、話すこと。どんなに嫌がろうとも家族なんだし。それにこれはステラの感想で、香織のお母さんは否定するかもしれないけれどね。あの人は態度ほど心では香織を嫌ってないわ」
「嘘」
「ただの感想よ。嘘でも真実でもないわ。近いうちに香織と両親が話し合う場を斎藤君達が作ると思うわ。その時、自分が今、どう思っているのか、これからどうしたいのか言えばいい。そこで家を出たいって結論が出たならステラも協力するわ」
「お父さんとも話し合うの?」
「当然よ。父親、母親で両親よ」
「お母さん以上にお父さんと何を話せばいいか分からないんですけど」
「お母さんにはあるのね」
「そりゃ言いたい嫌みが沢山あるもの。溜まりに溜まってるだから。でもお父さんは……何にもない。ずっと私に無関心だったし、私もそうしたから」
「嫌みでいいのよ。家族旅行に行きたかったとか、お小遣い頂戴とか。本当に何もお父さんに対して何も思っていなかったわけじゃないんでしょう」
「そりゃ……友達の話で家族旅行とか聞くと羨ましくて。お父さんに陰で愚痴を言ったりしたけどさ」
「それを直接本人に言えばいいの。家族なんだから遠慮はいらないわ。愚痴で殴るつもりで言ってやりなさい」




