自分は自分で人は人で
「最初にこの前の事は謝罪するわ。あの時はいろいろと立て込んでてちょっと余裕が無かったのよ」
「……」
紀乃さんからの反応は特に無いのは想定内なので話を続けることにする。
「せっかく再会出来たから少し香織の話をさせてね。これは私が感じた香織像なんだけど、あの子は本当に言いたいことを自分の中に隠しちゃう子なんだと思うの。言ってしまって本当に嫌われるのが怖いから、黙って行動してしまう。そして結果的に嫌われることになってしまう。そんな不器用な子なのよね。紀乃さんは私よりもよく分かっているんじゃない?」
「……」
返答は無いけれど食事のしぐさがだいぶ荒っぽくなっているので何か思うことがあるのだろう。
「で、次は紀乃さんの話だけど」
「っ!?」
自分の話と聞いて紀乃さんの手が止まる。
「紀乃さんは……自分で決めたことを絶対にやり遂げたいって人だと思うわ。そのための計画も準備も手を抜かない主義。それで今までほとんどのことは決めたとおりに達成してきたんじゃないかしら」
紀乃さんの顔を覗き込むように見ると紀乃さんは口を真一文字に結んだまま私から顔を逸らしてしまった。
「決めて自分でやることに対してはアクシデントで多少の予定変更が在っても調整出来ていたから結果的に達成は出来ていた。でも、それを娘である香織にも要求するのは少々酷だわ。自分に出来たことが他の人も出来るなんて限らないもの。自分の娘でも別の個性を持った一人の人間なのよ」
「そんなこと……言われなくても分かってるわよ」
紀乃さんが小さく発した言葉を私は聞き逃さなかった。分かっていたのならまだ大丈夫かもしれない。
「最初の内、香織は紀乃さんが決めたこと、求めていることを叶えようと努力していたの。でも、それにも限界が来た。限界は来ていたけれど母親が決めたことだからって意見も言えずに無理を突きとおした。子供だもの。母親に褒められたかった、喜んで欲しかったんだと思うわ」
この話をする時の香織の顔を思い出す。悲しくではあるが笑顔を少し浮かべる場面があった。褒められた時の事を思い出していたのかもしれない。
「限界が来たなら香織は自分で予定の変更とか調整とかしなくちゃいけないんだけど、ずっと紀乃さんに決めてもらっていたからどうすればいいか分からなかった。自分の中でどう折り合えばいいのか分からなくなって、紀乃さんに対して申し訳なくて分からなくなって……そしてもう顔を合わせてしまう家には居られなくて家から飛び出たんだと思う」
「……それは香織が言っていたの」
「半分以上ステラの想像」
「でしょうね。あの子はいつも本心を隠しているみたいだったから」
「でも感情は顔に出やすいわよ。そこはやっぱり親子なんだと思うわ」
「私も感情が顔に出やすいって?」
「ええ、香織が自分の決めたことを達成できなかった時にたとえ言葉では優しく言っていたつもりでもきっと顔は怖かったんでしょうね。子供の香織からすれば余計に」
「そんなことないわ」
「今、自分の顔を鏡で見ても言えるかしら」
声は平然としていたが、私が手鏡で映し出した紀乃さんの顔は眉間にシワが寄って怒っているようにしか見えなかった。




