ビジネス街のお昼時って
翌日、私の世界から運んできた私の力を取り組んでさっそく香織の母親である宮田紀乃の捜索を始める。普通の人間である紀乃さんを見つけることは難しいかもしれないと思っていたが、一度会っていたことが幸いしてすぐに見つけることができた。気配が香織と似ていたおかげでもあった。お互いの事を良く思っていないとしても親子の繋がりというものを私は感じることができた。
見つけた紀乃さんがいる場所へ向かうとそこはビジネス街の一角にある五十二階建ての商業ビルだった。一階、二階にコンビニや飲食街があり、それより上層部には様々なオフィスが入っているようだった。
ビルの麓からもう一度紀乃さんを探してみると十階付近にいることが分かった。分かったがさすがにオフィスの中に入るわけにはいかないのでとりあえずどんなオフィスが入っているのかビルの案内板を確認することにした。十階のフロアには教職員組合という名前が貼られていた。
「教職員組合……学校の先生の集まりよね。紀乃さんは学校の先生?」
香織からも斎藤君からも紀乃さんの職業についての話を聞いていなかった。
「でも学校の先生なら平日の昼時にここにいるのはおかしいか。組合の事務員なのかしら」
ともかくもうすぐお昼であり、紀乃さんが食事のために下へ降りてくる可能性があった。そこで偶然を装って出会ってしまおう。弁当などを持参していた場合は夕方、紀乃さんの仕事が終わるまで待つことになる。
「食費節約のためにお弁当を毎日作っていそうな生真面目なイメージあったわね」
夕方まで待つ可能性の方が高さそうだと心構えをしてコンビニで飲み物を買ってきて近くのベンチに座って待機することにした。
ビジネス街であるため人の通りは多く、スーツを着た男性が何人も私の前を通っていく。不審がられるかもしれないと考えもしたけれど、ほとんど人は私の事など視界入っていないようでまっすぐ目的地を目指して歩くか、スマホをずっと見つめて歩いていたので無用の心配のようだ。
待機しながら人間観察を続けているといつの間にか時刻はお昼になった。
改めて気配を探ってみると紀乃さんが十階から移動して下へ向かっていた。
「お弁当派じゃなかったか」
予想は外れたけれど早く来た遭遇の機会を逃さないためにベンチから立ち上がる。ここからどうやって遭遇するかは一応考えてある。紀乃さんが昼食を取るために入ったお店に私も入り、運が良ければ相席、でなければ近くの席に座ろうと思う。紀乃さんが料理を注文した後であれば私の顔を見て店を出るような行動を取る可能性は少ないだろう。
エレベーターから降りてきた紀乃さんを遠目で確認すると距離を十分に保って後をつける。同伴者はいないようで一人でお昼を食べるようだ。同伴者が居た場合、話をする難易度が上がっていたのでかなり助かる。
紀乃さんが商業ビル一階のカフェに入るのを見て、すぐには店には入らずに店内を確認する。お昼時で込み合っていた店内のカウンターに紀乃さんが座っていた。ちょうど何か注文したようで店員が去っていくところだった。紀乃さんの左右の席は埋まっていたが右側のお客はすでに昼食を食べ終えていて少しすれば空きそうな雰囲気だった。
数分すると狙い通り右側の席のお客が席を立った。
私はすかさず店に入って紀乃さんの隣の席に座る。座ってすぐに紀乃さんと目が合った。
「あ、あなたはっ!?」
「あら、お久しぶりですね」
紀乃さんが一瞬椅子から立ち上がりそうになるほど驚いた。紀乃さんは僅かに浮かした腰を再び椅子に落ち着けると敵意むき出しに私を睨んできた。
「どうしてここに?」
「偶然ですよ。お昼時ですから」
「お仕事はこの辺りなのかしら?」
「いえ、今は休暇中なの。この辺りにはちょっと観光にね」
「観光ってこの辺りはビジネス街で観光で見るものなんてないはずだけど」
「そんなことないわ。この国の人間じゃないステラからすれば何でも物珍しいわ。紀乃さんのお仕事はこの辺り?」
「貴方に話す必要がありますか?」
「……ないわね。でも、せっかく偶然にまた会ったんですから少しくらい世間話をしてもいいでしょう?」
「ほぼ他人の、少し会話した程度の人と世間話なんてしたくありません」
「そんなに嫌わなくてもいいと思うけど? あっ、店員さん、本日のおすすめパスタとアイスコーヒーを」
私が店員に注文を伝えた店員と入れ違いになるように紀乃さんの注文した品を持った店員が現れて、紀乃さんの前に本日のおすすめパスタとアイスコーヒーを置いていった。
「同じ注文ね」
「この店ではこれが一番早くて無難なのよ」
「そうなのね。いい注文をしたわ。ああ、遠慮せずに食べてて。私の方で勝手に話すから。BGM程度に聞き流してくれていていいわ」
紀乃さんは少し躊躇した後、私から視線を外して急いでパスタを食べ始めた。少しでも早く食べ終わって店を出ようとしているのだろうけれど、私もそんなに長話をするつもりはない。数分あれば充分いいだろう。




