帰省に向けて
「……具体的にはいつ帰るの?」
「準備が出来次第だけど、二、三日中の予定」
「本当にすぐじゃん」
「元々長居する予定はなかったのよ。ステラさんのご迷惑になるだろうと思っていたし」
「別に迷惑じゃなかったわよ。とても楽しめたわ」
私の素直な感想にエメオールは表情を輝かせて喜ぶ。
「その言葉を聞けただけでこちらに来た甲斐がありました。私は嬉しいです」
エメオールが喜ぶ横で香織が難しい表情を浮かべていた。
「香織はエメオール達が帰ると淋しい?」
「そりゃせっかく仲良くなったんだから淋しいわよ」
「別に仲良くなったつもりはないけれど?」
「仲良くなければ一緒にパンケーキは食べないと思いますがぁ!?」
仲良しを否定するエメオールの言葉を否定しようとしたアルガトの言葉が苦痛の声で途切れた。テーブルの下でエメオールに足でも踏まれたのだろう。
「エメオールさんがどう思っていても私としては仲良くなったとは思ってる。最初とかすっごい警戒されて睨まれてたけど、今はそんなことないしさ」
「単に慣れただけよ」
「今みたい軽口が言えるのって結構仲良くないと出来ないって私は思ってるんだけどなぁ」
「勝手に思ってなさいよ」
エメオールのツンケンとした態度も香織としては好ましいらしい。
「帰るのは寂しいけど仕方ないよね。でもせめてお土産は何か渡したいな。お菓子とか」
「定番だけど世界的なお土産となると何になるのかしら」
「ステラは何回か帰ってるんでしょ? 何をお土産にしているの?」
「お菓子よ。ただし、果肉や種入りのモノは避けているわ。何かの間違いでこの世界の植物が向こうで自生するのを避けたいから」
「あー、生態系的なヤツね。それ考えると結構お土産の選択肢が狭くなる気が……お菓子やめようかな。もうちょっと今回の記念的な何かを……そうだ! アレにしよう。ねぇ、ステラ。今日の帰りに寄りたいところがあるんだけどいい?」
「構わないわよ。アレって何?」
「たぶんステラも経験無いヤツ。少なくとも私は誘ってないし、他に一緒にやる知り合いもいないだろうしさ」
それなりにこの世界で生活してきた私でも経験したことがないと言われて興味が湧く。
「それは楽しみね。何なの?」
「行ってからのお楽しみ。今は残ったパンケーキを食べちゃいましょ。近くの観光もしたいしさ」
「楽しみは後にとっておくのは大事ね。分かったわ。エメオール、アルガト、味わって食べて次は観光よ。エメオールが行きたいって言った小動物専門の動物園に行きましょう」
「岩や変な植物の相手をしたので動物と触れ合っていつも以上に癒やされたい気分です」
「ふれあいコーナーもあるみたいだから思う存分ね。でも噛まれることがあるらしいから気をつけてね」
「お言葉ですがステラさん、動物達とのコミュニケーションは自信がありますよ、私。森の生活が長かったですから」
エメオールに質問しようとして香織が小さく手を上げた。
「長いってどれくらい?」
「五百年くらいかしらね」
「何も知らなかったら冗談にしか聞こえないわー」




