展望台 - エメオール6 -
「おや? 不思議ですね。まだ歩ける存在がいるとは……」
急に脳内に声が響いた。
「っ!? テレパシー!?」
私は強制的に流れてきた思念の声に頭痛を覚えて額を抑える。
「何か言っているようですが聞こえませんよ。私にはあなた達のような音を聞く器官が無いので」
声の主は眼の前の大きく赤い花弁と野太い茎を持つ花だ。
私が見上げるほどの巨大な花には普通ではない特徴があった。大きさも当然普通ではなかったが一番は根の部分が無いことだ。
普通の花、植物は地面に根を張っているので生えている場所から自力では動けない。本来、根がある茎の下部部分からは緑色の無数の蔦が伸びて床でうねっていた。突然、展望台内の床に生えたのでもないかぎりはあの蔦を使って移動してきたのだろう。
どこからなんていうのは考えるまでもなく紫水晶を飛ばしてきた岩石群だ。紫水晶に乗って飛び込んできたと考えるのは妥当だ。フロアを軽く見回したところ、このフロアに紫水晶は飛んできていないようなのでそれだけは安心した。
「あんたは何者?」
弓を構えながら巨大な花にテレパシーをぶつける。昔に無理やり覚えさせられた思念伝達魔法であるテレパシーだったが今回は覚えていて良かったと思う。
「おお! まさかテレパシーまで出来るとは。この世界にも魔法はあるのですね」
「質問に答えなさい」
「アルム。私達を知る者はそう呼びます。こちらからも質問を。あなたはなぜ起きているのですか?」
「その質問をするってことはこの辺りの人達が寝ているのはあんたのせいなのね」
「私の花粉には生き物を眠らせる力があるのですよ。このフロアには花粉を蔓延させています。数度吸えば深い眠りに落ちるはずですよ」
「聞かれてもいない情報をよく話すわね。損するだけよ」
「疑問に答えていただきたいだけです」
「素直さは気に入ったわ。だからこっちも答えるけど花粉だっていうなら私も普通に吸ってるはずよ。眠らない理由は分からないわね。体質? 抗体でも偶然あったのかしらね」
特に毒耐性があるわけではないので本当に理由が思いつかない。
それに理由を考えるよりも今はやることがある。アルムと名乗った巨大な花の足元から伸びる蔦に数人の人達が絡み取られていた。
種類にもよるが植物は基本的には葉や根っこから栄養を取得しており、葉と根どちらか片方だけの栄養に偏るのは生育上良くない。アルムには巨体にしては小さな葉は付いているが根がない。この巨体を動かし生きていくのは葉からの栄養だけでは足りないだろう。であれば根っこが無いアルムはどこから必要な栄養を取り込むのか。
私の世界には一般的ではないが動物を捕食する植物がいたので想像はしやすかった。
「眠らせる花粉は食事をしやすくするためね」
「その通りです。元いた場所の食料はすべて食べてしまったので困っていたところでしたが……運良く彼らと相乗りすることが出来ましてね」
「彼らって紫水晶のことね。仲はいいのかしら?」
「彼らとは意思疎通は出来ませんよ。自動的に動いているだけですので。私はたまたま彼らの近くにいただけです」




