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ファミレスは青少年保護育成法令を守っています

「入れちゃった……信じられない。あの店員、高校生をこの時間帯に素通しって……後で怒られるんじゃない?」


 香織がファミレスの四人掛けの席に座りながら挙動不審な動きをしている。何が起こっているのか分からないという顔だ。だけど仕方がない。香織の言う通り、ファミレスなど深夜営業している店舗はこの時間帯、高校生など未成年を店へ立ち入らせてはならないという条例があるので普通なら香織はファミレスに入れない。

 私も見た目的には香織とそう年は違わないように見えるので店員から身分証の提示くらい受けるのが通常だ。

 だけど、それすらなかった。

 香織が困惑するのは当然だと思う。

 私達が年齢を聞かれることもなくファミレスに入れた理由は簡単だ。

 今このファミレスにいる全員の目には私と香織の姿が仕事帰りの四〇代男性会社員に見えているからだ。私がそう見えるように全員の視覚を弄っている。女神の力を使えばこの程度は簡単だ。モデルは私がマンションですれ違った人と先ほど香織に会いに来た人にしている。二人共、家に帰っているだろうし遭遇することはない。


「とりあえずドリンクバーでいい? 食べ物はどうする?」

「……あんた何者なの? このファミレスの店長とか、それとも株主?」

「店長でなければ株主でもないわ。言ったでしょ、金欠だって」

「じゃあ、なんでファミレスに入れたのよ。何も言われずに」

「理由、そんなに気になる?」

「気になるわよ。無理やり連れてきて……あんたに何のメリットがあんの? 宗教の勧誘?」

「宗教の勧誘ではないし、メリットはある。これは恩返しなのよ」

「恩返し?」

(うーん、魔王を倒してくれた恩とか話しても混乱させるだけというか変な事を話していると思われるだけね。また怒りだすかもしれないし……それらしく話すしかないか)

「昔、ステラと住んでいた国が死ぬかもしれないって状況に陥っていてね。どうしようもなくなって日本に住むある人の力を頼ったの。その人は見ず知らずのステラとステラの国を命懸けで助けてくれた。だからその恩に報いるために今度はステラが日本に住む人で困っている人がいたら助けてあげようってわけ。理由はこれでいい」

「……」


 言葉は何も返さないけど香織の表情からは今の話を一切信じてないのは分かった。

 

「信じなくてもいいわ。香織を助けたいということだけ分かってくれれば」

「助けるって……さっきも言ったけどお金と寝られる所が欲しいんだけど」

「お金と寝床か。何か方法があるかもしれないけど、ステラじゃ知識不足」

「駄目じゃん」

「まあ、決めつけるのは早いって。ステラの知り合いなら何か方法を思いつくかもしれない。今は時間が時間なので連絡が付かないけど明日またコンビニで待ち合わせしましょう。その知り合いを連れてくるから。時間はもう少し早い方がいいかな」

「やっぱり宗教。いえ、えっとネズミ講とかそういう商売なんじゃ……」

「高校生でよく知ってるね、そんな言葉」

「今時ネットで調べられるって。たまにニュースにもなったりするし」


 ネット。インターネット。

 誰でも知りたいことを調べられて、遠く離れた多数の人物と情報交換出来る技術。この技術の素晴らしい所は使う側がインターネットの仕組みを詳しく知らなくても誰でも利用出来るという点にある。私の世界にも遠くの人物と連絡をする魔法はあるが、かなり高位の魔法なので誰でも使えないわけじゃない。このインターネット技術は私が休暇を終えて帰るまでに私の世界で実用化していてほしい。

 実用化できればこちらの世界とネットをつないで向こうに帰っても海外ドラマを見れる。


「商売でもない。今、ステラは休暇中で仕事してないの。バカンス中」

「バカンスって金持ちじゃん」

「長期休暇という意味でしょ、バカンス。別にお金持ちを意味する言葉じゃないと思うけど」

「いやでもバカンスって豪遊しているイメージしかないんだけど」

「そうなの?」

「そうなのってこれって日本人だけの感覚かもね。あんた日本人じゃないんでしょ。日本語ペラペラだから忘れかけてたけど」

「ステラ」

「?」

「ステラはステラよ」

「禅問答?」

「何それ?」

「いや、私もよく分からない。何となく聞いた単語を言ってみただけ……何を言っているの、あんた」

「名前よ。あんたじゃなくてステラ。自己紹介したでしょ、香織」

「されたけど……名前で呼ぶ呼ばないは私の勝手でしょ」

「それは確かに。いいわ、ステラは気にしないことにする」

「後、私の事を名前で呼ぶのやめてくれない。さっき会ったばかりなのに距離近くてきもい」

「きもいとは酷い。さすがに傷つく言葉よ。でも、仕方ないじゃない。ステラは香織という名前以外知らないんだから」

「……」


 香織が急に黙り込んでしまった。また何か怒らせるような言葉を言ってしまったかと思ったけれど、そうじゃなく何か考え込んでいるみたい。


「聞かないの?」

「何を?」

「私の事。苗字とかどうしてあんなことしてるのとか……家族の事とか」

「別に聞く必要があるとは思えないから」

「気にならないの」

「気にならないと言えば嘘になるけど一番じゃないの。香織の名前は分かってるし、呼び方に不自由しないから苗字は知らなくてもいい。あんなことしている理由も家族の事もステラ的には後回し。一番は香織がステラに何をして欲しいか。それが気になってる」

「……」


 香織がまた考え込むように黙ってしまった。


「とりあえず何か飲みましょう。ドリンクバーでいいわよね。後は軽く食べる物……ステラが適当に選んでいい?」


 香織が小さく頷いたので私の好みで食べ物は注文した。

 ファミレスのメニューはいつ見ても華やかで美味しそうで困る。御飯系はもちろんだが、私的に目を引くのはデザート関連。色鮮やかでどんな味がするのか興味が尽きない。デザートに関して私の世界はかなり遅れていると実感している。特に生クリームに関しては開発した人間に寿命を百年くらい追加でプレゼントしたいほど感動した。正確に言えば生クリームから作られるアイスクリームに感動した。

 私の世界にも氷菓子はあったがあくまでも氷に甘いシロップをかけるモノだった。それはそれで美味しかったが、アイスクリームは別格だった。なぜ私の世界の誰かは生クリームを開発出来なかったのかと悔しくて泣いた。牛と同じような見た目の家畜はいるし、その乳を飲んでもいる。何かきっかけがあれば私の世界でもアイスクリームが誕生していたはずだ。しかし、現実は非情だった。

 しばらくすると注文したモノが運ばれてきた。私の目の前にはパフェ、サンデー、三段アイスが並び、香織の前にはホットケーキが二種類並んでいる。


「あんた、さっき軽く食べる物って言ってなかった?」

「デザートは別腹じゃないの?」

「いや、入る腹は一つしかないし。私、こんなに食べられないわよ」

「食べれないならステラが食べるから言って。こっちのパフェとか食べたかったら逆に言ってくれていいからね。追加注文するし」

「太るわよ」

「ステラは太らない体質なので平気なのよ」


 女神の力は万能だ。


「ちなみにこのまま朝まで居座るから。眠たかったら寝ていいわよ。連れを起こさないでくれ、死ぬほど疲れているって台詞言いたいし」

「何それ。映画のセリフ?」

「知らないの? 日本一有名な映画の台詞だと思っていたけど」

「全然知らないし。見る映画偏ってない?」

「いや、これでも満遍なく見てるのよ。筋肉モリモリマッチョマンが出ているラブコメからホラーまで」

「前提から既に偏っていることに気付けよ。はぁ、もういい。なんでツッコンでいるのか分からないし眠たいし寝る」

「その方がいいわね。寝不足は美容の天敵っていうらしいし」

「ずっと寝不足よ。ロクに寝れたことなんて最近なかったんだから……」


 言いながら香織の瞼が下がっていき、テーブルに腕を付けて寝てしまった。


「せめて今日は熟睡できるように。後、体に変な負荷がかからないように魔法をかけてあげるわ、香織」


 結局注文した食べ物は全部私が食べることになってしまった。太ることはないが満腹にならないわけではないのでそこそこ辛いかもしれない。コンビニで買ってきた夜食については明日の昼食にしようと決めてパフェを一口食べた。


「はぁぁ、おいしい」


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