生気とは活力
遠くから人に見えないよう不可視の魔法をかけた私と清隆君はビルの屋上から屋上へと移動する。移動している最中、遠くのビルの窓に人影が見えるたびに向こうからも見えているのではと心配になる。不可視の魔法は今まで使うことがなかった魔法なだけにちゃんと効果があるか不安だ。
「ステラさん、このパン美味しいですね!」
「そう、良かったわ」
前を行く清隆君は私が夜食に持ってきたパンをかじっている。先日見つけたパン屋の商品だ。気に入ったのでしばらくあの店には入りびたることになる。
「パンは美味しいですが、この調子では今日も遭遇しそうにありませんね」
「……ええ」
清隆君は毎日、私は毎日ではないがそれなりの日数のパトロールをしているけれど、ビルが消失した日以来、人が襲われる場面に遭遇していない。実際に襲われていないのであれば良いことだけど、私達が見つけられていないだけかもしれないので楽観は出来ない。
「パトロールの範囲を変えてみますか?」
「そうね。あの一件で相手が警戒して場所を大きく変えたのかもしれないし」
せっかく糸口が見え始めたのに振出しに戻るのはかなり困る。
先日戦ったあの二人はそれなりの実力があったので相手の幹部クラスではあったのだろう。後どれくらい仲間がいるのか分からないけど、もし規模がそれなりなら直接私達が狙われる可能性も十分ある。それならそれで楽なので正直襲い掛かってきてほしい。
「この前戦った相手ですが、あの二人が使い魔を作って人々から生気を収集していたのですよね」
「本人達がそんなことを言っていたわね。話を信じるならそうでしょう」
「使い魔を作る者がいなくなったので襲われる人もいなくなったのではと考えたのですが、どうでしょうか?」
「重要そうな人材なのに結構あっさりと切り捨てられていたから他にも作れる部下が居そうだけどね。ここ数日まったく使い魔に遭遇しないことを考えるとその可能性もあるわね。そうだとしたら敵は相当頭悪いわ」
「僕が異世界で出逢った悪党の中にも後先考えずに無能だと判断した部下を排除していた奴がいましたね」
「そういう奴って頭悪いくせに自分の考えが一番優れてるって自惚れている奴なのよ。私も会ったことあるわ」
「世界は違えど同じような悪がいるものですね」
「似たような環境があったら考え方も似るんでしょうね。人同士が関わっている以上は」
少し気になることがあって次のビルへは飛ばずに留まる。
「闇雲に探すより相手が何をしたいのかを考える方がいいのかもね」
「目的ですか」
清隆君も前のビルから戻ってきて腕を組んで悩み始めた。
「あいつらは使い魔を使って多くの人から生気を集めていた。症状の差で数日寝込む被害者もいるけれど誰も殺してはいない」
「意外にいい奴なのでは?」
「人を無作為に襲っているのにいい奴なわけがないでしょ」
「そうですね、すいません」
「殺してないのは騒動が大きくなるのを避けたかった。何人も夜に死んだとなれば人が夜に出歩かなくなるからとかそんな所でしょうね」
「さすが女神様、頭がいいですね」
「これくらいで褒められると逆に馬鹿にされている気がするのだけど」
「いえ、そんなことは」
「分かってるわ。清隆君が純粋に称賛してくれたってことは。話を戻すとやはり気になるのは生気を集めていた目的ね。殺してはいないけれど人を襲っている以上、乱暴な方法を取っていることに違いないわ。急いでいるのかしら」
「生気。つまりはエネルギーなわけですが、こういうものを集める理由として僕が思いつくのは何かを破壊するためや復活させるための贄にするとかですね」
「破壊はどうでしょうね。ビル一つを消失させる力があるんだから人の生気の力はいらないと思うけど」
「では復活ですか?」
「そちらの方がまだ可能性が高いでしょうね。封印されているなら今のうちに事件を解決したいけど」
ボス的な存在が封印されているならあのビルを消失させた相手は他にいることになる。それはそれで厄介だ。




