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やりがい

 ビル一つが消滅した事件は数日経っても世間を賑わせていた。

 今、私が見上げている繁華街の街頭ビジョンにもニュースとして映像が流れている。消滅したビルの跡地に警察が入って現場検証をしている光景だ。私達はあの場に何も残していないし、ビルを消滅させた犯人も何か証拠を残すようならあれほどバカげた攻撃はしてないだろう。

 次の映像として視聴者が撮った事件時刻近辺の映像が流れたので私は少し冷や汗をかく。夜であまり近くに人がいないことは分かっているけど、遠くからでも私や清隆君の人影くらいは映っているかもしれなかったからだ。

 今は隕石やらガス爆発やらと真相とは別の所を予想してくれているけど、人影が居たとなればその人影が何か知っているのではとなって、捜索が始まるかもしれない。そうなってくると私と清隆君の夜のパトロールもやりにくくなる。元々この件はこの世界の人々に知られずに収めようと思っていただけに、万が一にでも清隆君や私が戦っているところをマスコミ、または撮影されて動画サイトなどに投稿されては大変困る。

 清隆君もこれまでのような生活は送れないだろうし、私も休暇でゆっくり過ごそうという本来の目的が果たせなくなる。


「ステラさん、お待たせしました」


 最近日課となっている夜の待ち合わせだが、今日の相手は清隆君ではなく斎藤君だった。香織の両親の面談の件での打合せがこれから行われる。参加するのは私と斎藤君、そして香織が今世話になっているシェルターの職員。香織の近況と両親の事情を話し合って面談をどうやって進めていこうかという打ち合わせになると聞いている。


「女性を待たせるものじゃないわよ、斎藤君」

「すいません、仕事が終わらなくて」

「弁護士の仕事が忙しいのが良いことなのか分からないけれど、仕事が充実しているのはいいわね。夢見た仕事だもの」

「ええ、やりがいがありますよ」

「でも無理は禁物。確か何時間以上働いたらいけないみたいな法律あるでしょ」

「ありますけど……ちょっと守れてないのが現実ですね」

「弁護士は法律を守る立場じゃないの?」

「弁護士が守るのは法律ではなく、悩んでいる人、困っている人です。そのために法律は使用するので守っているといえばそうですが」

「斎藤君が弁護士として誰かを助けるなら、ステラは斎藤君を手助けするわ。ステラに何かして欲しいことがあれば言いなさい。出来る範囲で叶えてあげるから」

「何かあればお願いします。個人的はもうステラさんに頼らないようにしたいですけど」

「うん、それがいいわ。ステラも頼られたいけど、頼ってほしくはないもの。正反対のこと言ってるけど本音。さあ、打ち合わせに行きましょう。近くのビルの会議室よね」

「案内します。こちらです」


 斎藤君に案内されて入ったビル内の小さな会議室には年配の女性が一人座って待っていた。


「ステラさん、この方はシェルターの管理をされている安藤さんです」

「初めまして、ステラ・サンドウィッチです」

「サンドウィッチ? ああ、失礼しました。私は安藤 里美(あんどう さとみ)です」


 お互いに軽く頭を下げて名前を名乗った後、握手を交わした。安藤さんの表情がだいぶ硬いけどよく知らない人が自分の管轄に現れたのだから当然の態度だろう。


「名前は気にしないで。ステラの方もちゃんとした敬語使えないから言葉遣いが変だったらごめんなさい」

「斎藤先生から話は聞いていましたが外国の方なのに日本語がお上手ですね」

「ええ、勉強したので」

「自己紹介が終わりましたら早速打ち合わせをしたいのですがよいでしょうか。夜で時間も限られていますし」


 斎藤君に促されて席に座ると安藤さんから数枚の紙が渡された。読んでみると香織の家庭状況と両親との仲について書かれていた。


「本来ならこの情報は部外者の方にはお見せしてはいけないのですが斎藤先生がステラさんには見せた方がいいと」

「斎藤君、あまりステラを過剰評価してもらうのは困るんだけど」

「過剰評価というかステラさんは部外者ではないという判断です。宮田さんの件に最初に関わったのはステラさんですし、今も彼女の支えになっている」

「宮田……あ、香織ね。名字で呼ばないから一瞬分からなかったわ」

「名前で呼び合っているのは親しい証拠です。今、一番宮田さんの心情を理解できる人はステラさんだと判断しました」


 面と向かって言われるとさすがに恥ずかしいので照れ隠しに頬をかいた。頬をかいていると安藤さんが何か思い出しように手を叩いた。


「そういえば先日も二人で遊びに行かれたそうで。宮田さんが話してくれていました」

「香織が?」

「ええ、シェルターではたまに住んでいる子達の近況を聞くんですけど、その時に。楽しそうでしたよ」

「そうだったの? この前は香織的に少し嫌なことがあったから不安だったんだけど、楽しそうだったなら安心したわ」

「嫌なこと?」

「学校の友達との仲が上手くいってないみたいなの。それで不機嫌になっていたんだけど……甘いものを食べたおかげなのかな」

「そうなんですね。家庭以外にも学校でも問題が……宮田さんはそこまで話してくれませんでした」

「ステラに話したのも偶然よ。街中でその友達と偶然出会ったのがきっかけだったし。ともかく今は香織の家庭のことでしょ。学校は家庭が解決すればなんとかなると思うわ」

「そうですね。では、改めて資料を見てください」

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