複眼の視野はほぼ360度
ソリダスの攻撃を何度も受けていたせいか清隆の服が細切れになっており、上半身はほぼ裸だった。しかし、自慢していただけあって体の方には多少の擦り傷以外大きな怪我は見えなかった。ソリダスははるか上空から落下して清隆に体当たりをする攻撃を繰り返しているようで私が視線を向けた時、ちょうど二人が接触するタイミングだった。
清隆はソリダスが自分の攻撃射程に入るタイミングでカウンターを放とうと狙っているようだけど、タイミングが合わせられずに攻撃が当てられていない。今も二人は互いに有効打を与えられずに交差してソリダスはまた上空へと飛び上がっていく。
高高度に上がったソリダスは複眼で私がウリガスを捕まえているのを見たのか少し動揺したように飛び方がぶれた。唯一見せた隙だった。清隆は両足で屋上を蹴り上げて一瞬でソリダスのいる高度まで飛び上がった。自分のいる高度にまで飛び上がってきた清隆に驚き、ソリダスの動きにまた動揺が発生した。
今の今まで地上にいることしか出来なかった相手が実は自分と同じ場所まで辿り着けると知ったのだから動揺するはずだ。清隆を勝てる相手と見下していたのならなおさらだ。
これだけの隙を見せたソリダスに対して清隆は相手が次の行動を移す前に勝負を決める。突き出した清隆の掌底がソリダスの体にめり込む。
「光覇爆炎掌っ!」
清隆が技名を叫ぶと共に爆発音とまぶしい光が夜空に響き渡る。私の目には掌底を打ち込まれたソリダスの体が内部から光を溢れ出して燃え出したかと思うと爆発する様子が移っていた。
内部から爆発って……かなりえぐい技ね。
ソリダスの体の破片は周囲に飛び散りながらまだ燃え続けていく。あの様子では地上に落ちる頃には燃え尽きているだろう。だけど念のため、ある程度の高さに広範囲のバリアを展開して破片が地上に落ちないようにしておこう。誰かに当たって怪我でもしたら大変だ。
少し遅れて清隆がバリアの上に落ちてくる。それなりの衝撃があったので普通に屋上へ着地していたら天井をぶち抜いていたかもしれない。
「ステラさん! この空中の足場はステラが?」
「そうよ。今、解除するから慌てずに着地してね」
清隆の足元のバリアを解除して清隆を屋上へと下す。清隆はやり遂げた表情で私に近づいてきた。とても満足そうだ。
「あの蠅が動揺した理由はステラさんがもう一人を捕まえたおかげだったのですね。ありがとうございます。そのおかげで倒せました」
「結果的にね。あのままでもいずれ倒せたんじゃない? 蠅の攻撃は効いてないみたいだし」
「いえいえ、そんなことは。羽の超振動による斬撃と打撃で体中が痛いですよ。ほら見てみてください」
そう言って清隆は体を見せつけてくる。しかし、わずかに痣と擦り傷以外に怪我の様子が見えない。体の中のダメージという意味では調べてみないと分からないけど、本人が言うほどダメージは受けていないように見える。
筋肉を見せつけたいだけじゃないのかな。
「回復出来るけど必要?」
「ステラさんのお手を借りるほどのものではありません。この程度は自己治癒出来ますので」
「ならいいけど。じゃあ、残ったこいつの尋問でもしましょうか」
光の鎖で縛っているウリガスに視線を向ける。
「そうですね。この手の事は苦手なのですが……ステラさんはお得意で?」
「得意なわけないでしょ。ドラマで見たことある程度よ」
光の鎖の効力を少し弱めるとウリガスの反応が戻り転がるように暴れ始めた。
「っ! こんなもので私を拘束しようなどとっ! 今すぐに破壊してやる!」
「清隆君、上から抑えつけてもらっていい?」
「分かりました」
清隆によってウリガスは屋上に体を押し付けられた。それで動きは止まったけど口だけは動き続ける。
「ソリダスはどうした!? まさか倒したのか!?」
「ええ、今貴方を抑えつけてる清隆君がね」
「なんと愚かな……我々に倒されていれば良かったものを。お前達はこれから死を望むほどの恐怖に襲われることになる」
「それは貴方達の主様が復讐に来るってこと?」
「復讐ではない。お前達は主の機嫌を損ねた。それが死よりも恐ろしい恐怖がお前達に襲い掛かる理由だ」
「向こうから来てくれるなら探す手間が省けて楽ね。ついでに貴方達の主の名前とか教えてくれない」
「いいだろう。死ぬ間際に主の名を叫んで命乞いをするのだな。主は……」
「!?」
突然、真上に巨大な魔力が現れた。
「清隆君、離れて!」
私が言うよりも早く清隆は危険を感じてウリガスから距離を取っていた。私もウリガスからビルにして二つ分ほど距離を取る。直後、ウリガスがいたビルを含めた周辺に魔力が巨大な柱のように降り注ぐ。技も何もなくただ魔力の塊で押しつぶすという力技だ。
小型隕石が落下したかのような衝撃が周辺に拡散していく。私は衝撃が広がらないように落下地点を囲むように防御魔法を展開した。展開した防御魔法は間に合い、衝撃が他の場所へ広がることはなかったが、魔力の落下地点はビルが跡形もなく消えており、当然ウリガスの姿もなかった。私の封印魔法で拘束していたので逃げたということはない。ビルと同じように跡形もなく消えてしまったのだ。
おそらくウリガスとソリダスの主の手によって。
反対方向のビルの屋上に清隆が無事に立っているのを確認した後、私は既に何の形跡もない魔力が降ってきた空を睨みつけた。
ボスらしき存在の片鱗が見え始めました。ようやく。




