観光客がまた一人
「ここへ来た理由? この世界へ来た理由ってことよね。元いた世界が暇になったからよ」
「暇?」
「そう、暇。少し前までゴタゴタしていたんだけどね。それが全部片付いてね。片付いた直後はようやく終わったって安堵してたんだけど、今度は何もなさすぎて暇になったのよ。おかしいわよね。ゴタゴタしている時は早く終われって思っていたのにいざ終わったら日々がつまらないんですもの」
ラテスは手持ち無沙汰からかフォークを人差し指に器用に乗せて回す。
「この世界を選んだ理由は」
「……これって何か疑われているのかしら? 特に悪いことはしてないけれど? 責められているようで気分が悪いわ」
ラテスの人差し指の上で回っていたフォークの先が私に向けられてピタっと止まる。
「隠すつもりはないわ。疑ってる」
「正直でいいわね。素直なのは好きよ。何を疑っているの?」
「ある人間が命を狙われているのよ。でもいつ誰に命を狙われるか分からないの。そんな時にあなたが現れたら疑うのは仕方ないでしょ」
「人間が命を狙われている? なんでそんな事であなたが動いているの? 心配とかする必要ないじゃない。人間なんて世界中のどこかでいつでも誰かが命を狙われてるわよ」
「ステラも見ず知らずの人間の心配までしてないし、しようとは思わないわ。でもね、見知っている人間なら心配するし、助けたいと思うわ」
「ふーん、変なの。まあいいわ。パンケーキ分と答えるけど、私は別に人間一人をどうこうしようなんて思わないわ。そんな些細なことを考えるだけ時間の無駄だもの。私がこの世界へ来たのはえっと……観光って言えば良いのかしら? 美味しい物を食べたり、楽しいモノを見に来ただけよ」
言葉の端々に気なる言い回しはあるけれどもラテスの言葉に嘘は感じない。観光目的で来たというのは本当に思えた。
「質門はもういいかしら? 食べる物はとりあえず食べたし、後はこの世界を散策するとするわ。面白い建物とか動物とかあるかしら」
「ちょっとまだ少し聞きたい事が」
「もうパンケーキ分は話したわ。それじゃね」
瞬きする間にラテスの姿が私の視界から消えてフォークがテーブルの上に落ちた。フォークと皿がぶつかる音が響く店内を見渡すがどこにもラテスの姿はなく、探知魔法を使ってもラテスを見つけることは出来なかった。




