レトルトは気持ち分的に湯銭の方がおいしい気がする
小うるさいスマホの着信音で目を覚まされる。
ディスプレイを見ると時間は午後3時過ぎを表示していた。清隆と行っている夜間パトロールを数日前の一件以降成果はなくすべて空振りに終わっており、私には寝不足というデメリットだけが付加されていた。
「はい、ステラよ」
「ステラさん、斎藤です」
「……どっちの斎藤?」
「いや、どっちと言われても困るんですが」
「冗談よ。どうしたの? 香織のこと?」
「そうです。彼女のことで少しお話がありまして」
「ちょっと待って。今まで寝てたから少し頭をすっきりさせるわ。すぐに戻ってくるから」
スマホをその場において洗面所へ行って軽く顔を洗って戻ってくる。
「お待たせ。で、話って?」
「香織さんの今後についてです。いつまでもシェルターへいることは出来ませんので」
「……でしょうね。あくまでも一時的な場所でしょうから」
「香織さんにも最初に入居する時、いつまでここに居られるのかを伝えています。その期限までに家庭の問題が解決して自分の家に戻れるのが一番いいのですが」
「香織の家の事情はステラが聞いているけど?」
「私も職員を通じて伺っています」
私に話をした後、職員にも家庭の事情を話したのだろう。最初に会った時は誰も寄せ付けないサボテンみたいなトゲトゲしさがあったが、打ち解けると普通の女の子だということがよく分かる。誰かに頼る方法を知らなかっただけなのだろう。
「私に何か協力してほしいの? 手助けしたい気持ちはあるけど、家庭の事情の解決はステラには出来ないわよ」
ちゃんと専門の人がいるならその人がやるべきだ。この世界の人達同士で解決できるならそれに越したことはない。
「今度、香織さんの両親と話し合いをする場があるのですが、その場にステラさんも同伴していただきたいのです」
「……私、いるの?」
「現状、一番香織さんに信頼されているのがステラさんですので、彼女の心情も一番分かっているのではと思います」
「そこまで自惚れてないんだけど……」
「周囲から見た素直な感想です」
「斎藤君がそういうなら信じるわ。で、同伴するのよね。いつ会う予定なの?」
「まだ先方とアポが取れていませんので正確な日程はまだ。来週のどこかを予定しています。都合の悪い日取りはありますか?」
「夜はちょっと忙しいけど夕方くらいまでならいつでも平気」
「分かりました。では、予定が決まりましたらまたご連絡します」
「香織から聞いた話だと母親の方はかなり神経質っぽいけど、まともに話し合い出来るかしら」
「そこはこちらにも対応に慣れた人がいますので」
「任せるわ。でもそうなると本当に私が力になれることないとは思うわよ」
「そんなことはありません。ステラさんには不思議な魅力……カリスマとは違いますが、人を惹きつける何かがあります。私もそこに助けられた一人ですのできっと今回も」
「そういう点で頼られるのが一番困るんだけどな」
人を惹きつけるのは女神としての習性みたいなものだ。この手の権能は出さないようにと気を付けているつもりだけど、よく漏れ出てしまっている。
「そんなことは言わずにお願いします」
「お願いされたことは出来る限り手伝うから安心して。今回は斎藤君にも結構無理させているしね」
「未成年の案件ですからこれくらいの無理はしますよ。そうでもしないと今の私では助けられませんからね」
「苦労かけるわね」
「これもステラさんへの恩返しですよ」
また電話すると言って斎藤君との電話を終えると寝起きで空腹を感じているお腹を抑えながら食料品を備蓄している棚へと向かう。食料品と知ってもカップ麺やレトルトだ。この手のまったく手間をかけずに美味しい食事が出来る商品にも驚かされている。最初はお湯を入れただけで美味しいわけがないと疑っていたが、すぐに認識を改めさせられた。三食カップ麺だった時期もあるくらいだ。
しかし、今のお腹が求めているのはカップ麺ではなかった。私は棚からレンジで温めるタイプのパックご飯と同じくレンジで温めるタイプの牛丼パックを取り出す。パックご飯は種類が多彩であり、お米の銘柄や炊き方で商品が異なる。私が好んで買っているのは小分けにパックされている商品だ。あまり食べたくない、でもご飯食べたい時など重宝するし、沢山食べたい時は2パック使えばいい。
牛丼のレトルトもそれなりに種類があり、安いのから高いのまでピンキリだ。安いからと言って美味しくないわけではないが具の量はかなり顕著だ。棚の中には各種メーカーの牛丼を一通り買い揃えているが、今はそれほど量を食べたいわけではないので一番量が少ない物を選んだ。
牛丼でいえば冷蔵庫の冷凍庫にも常備している。冷凍庫には各種有名牛丼メーカーの牛丼を保存している。他のレトルト牛丼に比べて割高だが、食べたいが食べに行くのか面倒だという時にかなり便利だ。
ご飯と牛丼、それぞれ指定された時間とワットで電子レンジにセットして温めた後、どんぶりへと開ける。牛丼の良い香りが鼻をくすぐる。小分けにパックされた紅ショウガと七味唐辛子を振りかける。
最初の一口は牛丼のタレがしみ込んだ白米と牛丼の肉と玉ねぎ、少しの紅ショウガを一口分として箸で掴んで口に入れる。牛丼のタレと肉汁、そして紅ショウガの歯ごたえと酸味が口の中で広がり感じる美味しさに瞼が落ちる。最初に味の濃い部分を食べたので次はタレがあまり染みてない白米を食べて、口の中を一度落ち着かせる。そしてまた味の濃い部分を食する。これを繰り返しているとあっという間に牛丼を食べて終えてしまい、お腹が八分目の満足を得た。食べ終わった後で最近、野菜を食べてないことに気づき、夕食にはサラダを買ってこようと決めた。




