どちらが本気か
共食いへと向けられていた剣の刀身が前触れもなく伸びて共食いの眼前へ襲いかかる。予備動作が一切ない、少なくとも見ていた私には分からなかった攻撃を共食いは親指と人差し指で剣先を摘んで防いだ。
赤崎君は剣を更に突き刺そうと力を込めて押しているが共食いの掴んだ剣先は微動だにしていない。私はそこでようやく赤崎君の剣の柄が先程よりも短くなっているのに気付いた。もともと血で作られた剣だ。赤崎君が血を操作出来るなら造形を作り変えて刀身を伸ばすことは簡単だろう。
「まだまだ全力じゃないよな。思い出補正というヤツかもしれないが本気はモットだろ」
「あんたが既に全力なのか?」
「ウォーミングアップが終わってようやく体が温まってきたところだ。鈴野達だと準備運動にもならなかったからな」
「なら俺もそうだっ!」
突きではなく剣を振り下ろすように力を込めて共食いの指から剣先を開放すると赤崎君は返す剣で振り上げた。共食いは余裕な表情で攻撃を躱すが、その顔に斜めの一閃が走る。
「っ!?」
剣による攻撃は確実に躱したと考えていた共食いの表情が驚きに変わった。赤崎君は驚きで発生した共食いのスキを見逃さずに先程爆発から見を守るために使った血の壁を強引に移動させてぶつけて押し潰した。
「このまま平たく押し潰す!」
上から壁で共食いを潰そうと力を込める赤崎君に対して共食いは壁を壊そうと打撃を繰り出しているようだった。打撃音が聞こえる度に壁の一部が盛り上がる。しかし、壁は衝撃を吸収するようにたわむだけで壊れそうな様子はなかった。
「がああぁぁっ!」
共食いの苦痛の声が聞こえてくる。
横で見ていた頼子ちゃんは思わず耳を塞ごうとしたが、途中で動きを止めて起こっている全てを見て聞き逃すまいと気合を入れるように軽く自分の頬を叩いた。
潰れるような音は聞こえてこないが共食いの抵抗が徐々に少なくなっていき、遂に押し潰していた壁が地面とほぼ水平になった。
今度こそはと思った矢先、私の肌に寒気さが走った。
嫌な予感などの第六感ではなく肌感覚として周囲の気温が一気に下がったのだ。頼子ちゃんは急に出現した寒さに思わず両肩を抑えている。
頭で考えるよりも先に感じてしまった感覚から思わず体が動いてしまう。脊髄反射というモノだ。赤崎君も同様で一瞬だが動きが鈍った。押しつぶそうとする壁へかかっている力も弱まった時、一定の弾力があった壁が凍り始めたかと思うと全てが一瞬で凝固した。
突如北極圏に来たかと感じる寒さへの驚きの中、凝固した壁を突き破って共食いが姿を表した。




